書評

過激で過剰、痛快で悲惨……とにかく無類に面白い! 予測不能のジェットコースター小説

文: 金原 瑞人 (翻訳家)

『番犬は庭を守る』(岩井 俊二)

『番犬は庭を守る』(岩井 俊二)

 松尾スズキ率いる大人計画の芝居を生で観ているような気にさせられる。タブーなどまったく無視して描かれるこの世界を前に、たじろぐ人も多いだろうが、いきなりこの世界に引きずりこまれる人はもっと多いはずだ。なぜなら、まさに、これが現実だからだ。それに、なにより、ウマソー、いったい、どうなる!? それが気になってしょうがない。

 この超格差社会の最底辺を生きることを運命づけられているかにみえるウマソーが、運命の好意か、運命の悪意か、あるいは運命のいたずらかはわからないが、波瀾万丈の物語に放りこまれる。

「小便小僧」の対極にいるのが、「種馬」と呼ばれる男たちだ。彼らは優良精子保持者で立派な性器を持っていて、精子は民間の精子バンクに高額で買いあげられる。そのなかでも群を抜いて優秀な種馬が、市長だ。その市長の娘イセネットが、この作品に颯爽と登場する。異様に熱しやすく冷めやすいタイプで、次々に恋の相手を代えていく。その相手も様々で、あるときは身長一九五センチの短髪の女性だったりする。そんな彼女が、小便小僧ウマソーと恋に落ちる。そのきっかけになったのが、ウマソーに連れられていった薄汚いアジア人街でみた闘鶏だった。

番犬は庭を守る岩井俊二

定価:本体740円+税発売日:2020年01月04日


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