いよいよここから、ウマソーの受難が始まる。なんと、使用済みの核燃料や放射性廃棄物が運びこまれた「流刑地」と呼ばれる原子力発電所跡に飛ばされるのだ。そこで繰り広げられる、子どもたちとの戦いがまたすさまじい。
これでもかこれでもかといわんばかりに降りかかる不運と悪意に耐えかねたウマソーは、暴力に目覚め、「通り魔」の魅力にとりつかれたりもするのだが、それも長くは続かない。
彼自身、悲惨なのだが、まわりの人間もみんな悲惨なのだ。
一握りの特権階級が有り余る富を享受する一方、悲惨な者同士が憎しみ合い、傷つけ合う。パンドラの箱、全開状態。まさに二十一世紀の世界を凝縮したような愚かで滑稽な地獄絵巻が展開する……のだが、それをここまでサディスティックに提示した小説もほかに例がないと思う。ずば抜けた想像力と、びっくりするような語りのうまさが、見事に結実した作品だ。
しかし、この作品の本当の素晴らしさはそこではない。いや、ここまででも十分に素晴らしいのだが、それを超えて素晴らしいのが、最後の一行にこめられた、祈りにも似た希望だ。
こちらもおすすめ
プレゼント
-
『赤毛のアン論』松本侑子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。