素人バンドによくあることだろうが、最後の一曲だけはまぐれ当たりという感じに、なんだかいい曲だった。旋律だけとれば、世のヒットチャートに上ってもおかしくないくらいに。鼻毛ちょうむすび――客の掛け声から愛称は〈鼻ちょう〉であることが知れた――はある程度長く続いているバンドらしく、その曲になると客は『待ってました!』という感じになった。もちろん学生バンドだから長いといっても3~4年、客といってもクラスメイトが大半なんだろうが。そのサビの「楽園へ行こう~」というリフレインのところでは、僕以外の客ほぼ全員による、手を上に大きく振ってウェーブをつくりながらの大合唱になった。
「いやーキツかったー、だって練習たったの2週間だぜー」
高村は頭をかきむしりながら僕のところに来た。笑顔のまま苦々しい表情をしている。この人懐っこい顔を見るのはそこそこ久しぶりで、それはやはり僕にとってかなりの救いになった。
「いや、良かったよ。というか高村、本当にギター弾けるんだね。そのことにまずは率直に驚いたよ」
予備校で絵を描いている高村の姿しか知らなかったから、必ずしもお世辞ではなかった。
この続きは、「文學界」3月号に全文掲載されています。
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