書評

事実に基づく驚愕の物語。なぜ日本で「重婚」状態の男性が生まれたか?

文: 水谷 竹秀 (ノンフィクションライター)

『ダブルマリッジ』(橘 玲)

『ダブルマリッジ』(橘 玲)

 一方の憲一は、フィリピン人妻との婚姻関係を解消する手続きのためにマニラへ飛ぶのだが、国際電話で里美から離婚を迫られる。重婚の事実も会社にバレてしまい、ホテルのバーでやけ酒を飲んでいる最中、若いフィリピン人女性のシンガー、コニーと出会う。まさしく捨てる神あれば、拾う神ありの展開だが、浮かれ気分の憲一はこんな言葉を発する。

「俺もまだ捨てたもんじゃない」

 読者の大半は、失笑してしまうかもしれない。いい年をしたおじさんが、年の離れた若い女性に何を勘違いしているんだ! 相手はお前が持っている札束に惚れているだけだ! と。確かにそうかもしれないが、それで年の差婚が成立し、仲睦まじい関係を維持している夫婦は多い。一方で、金の切れ目が縁の切れ目とばかりに妻に愛想を尽かされ、捨てられて無一文になり、困窮邦人として生きていく日本人男性もいる。本書にもし続きがあるとするならば、憲一はいずれフィリピンにハマり、有り金全部取られて後者に陥るのではないか、というのが私の取材経験に基づく見立てだ。

 憲一が渡比した時期と重なり、マリも初めてフィリピンの地を踏んだ。地方のスクオッターでケンの実母を探し出すことに成功し、次回は必ずケンを連れて来ると約束して日本に帰国したのだが、マリを待ち受けていたのは、ケンを追跡する刑事の姿だった。知人のフィリピン人女性に子供を産ませてそのままにした病院の院長を殺してしまったのだ。

 追われたケンとマリは福島で再会し、逃避の旅に出る。しかし、ケンはショッピングセンターの駐車場で刑事たちに取り押さえられそうになり、逃げ出してトラックに轢かれた。その一部始終を、たまたま居合わせた憲一が遠目から見ていた。

ダブルマリッジ橘 玲

定価:本体840円+税発売日:2020年02月05日


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