書評

事実に基づく驚愕の物語。なぜ日本で「重婚」状態の男性が生まれたか?

文: 水谷 竹秀 (ノンフィクションライター)

『ダブルマリッジ』(橘 玲)

『ダブルマリッジ』(橘 玲)

『ダブルマリッジ』は、私の期待を遥かに超えていた。次々と展開していくミステリーにページをめくる手が止まらない。本書の冒頭には「これは架空の物語だが、戸籍に関する記述は事実に基づいている」と断っており、この複雑で難解な法的問題をきちんと押さえた上で物語を紡いでいく緻密さには、何度もうならされた。南国の日差しが照りつける土地の匂い、雑踏の中の人いきれ、渋滞の中を数珠つなぎに走るジプニー、夜の繁華街に光り輝くネオン……。混沌たるマニラの風景と熱気が、今まさに目の前に立ち現れてくるかのようである。

 本書は、商社に勤める桂木憲一の戸籍謄本にある日突然、フィリピン人女性の名前が記載されていたのが見つかった場面から始まる。憲一は妻の里美に「そんな女性は知らない」と言い張るが、実はバブル真っ盛りの頃にマニラに赴任し、その女性と出会って結婚していた。二人の間には息子、ケンが生まれ、その名前も戸籍謄本に加わっていたことが発覚し、家族に亀裂が生じる。

 憲一の娘で大学生のマリは、母親違いの兄、ケンの存在が気になり、戸籍謄本に記載された住所地を頼りにケンの行方を探す旅に出る。やっとの思いで見つけ出したケンは、福島県で働く原発作業員。この設定は恐らく、事実に基づいているのだろう。東日本大震災以降、被災地のパブで働くフィリピン人女性向けに、「復興ビザ」と称して興行ビザが発給されやすくなったという話は、私もパブの経営者から聞いていた。その流れで、フィリピン人男性が原発作業員として働いているというのだ。危険と隣り合わせの現場にいるケンを実の兄と分かっていながらも、マリは恋に落ち、そしてケンの実母がいるフィリピンへ渡る。

ダブルマリッジ橘 玲

定価:本体840円+税発売日:2020年02月05日


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