「ほう、今頃、あの事件を追っているとは面白いな。私も昔、児玉には何回かインタビューする機会があったよ。もっとも事件が発覚する前だったがね」
一九七〇年代に発覚したロッキード事件では、米国の大手航空機メーカーが日本での売り込みで、右翼の大物の児玉誉士夫(よしお)らを通じて巨額の賄賂を政府高官に送っていたのが暴露された。その結果、田中元首相が逮捕されて、ロッキード社の代理人の児玉とCIA(米中央情報局)のつながりも取り沙汰され、文字通り、戦後最大の疑獄事件となっていく。当時、『ニューズウィーク』でクリッシャーも取材に当たっていたらしい。
それから間もなくして、彼の自宅がある広尾で何回か昼食を奢ってもらった。その時の話題は過去の思い出が中心だったが、日米の政財界の内幕や駐日米国大使館の誰がCIA要員だったかなど、初めて聞く戦後史の秘話が次々と飛び出し、食事も上の空で聞き入っていた。だが正式な取材ではないのでメモを取る訳にいかず、別れてから近所の公園のベンチで懸命に書き取ったのを覚えている。
そういう会合が何回か続いたある日、クリッシャーが何気なく、戦後長らく昭和天皇の通訳を務めた日本人に長時間インタビューした録音テープを持っていると呟いた。その人物はもう亡くなっており、自分も今さら記事にする予定もなく、興味があるなら提供してもいいと言う。私はその場で申し出を受け、それが「真崎テープ」との出会いのきっかけだった。
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