それから数年間、彼とは会う機会がなかったが、不思議なことにこれ以降、世界中から私の元に皇室を巡る新たな証言や資料が相次いで寄せられるようになった。それはまるで磁石に引き寄せられるようでもあり、私は情報提供者と連絡を絶やさず、可能な限り赴き、それらを入手していった。
例えば、ニューヨークでは戦争中の米情報機関員の遺族から、天皇側近と交わされた膨大な書簡類を閲覧させてもらい、戦後の右翼の黒幕で国際的フィクサーだった田中清玄(きよはる/せいげん)の元側近は、終戦直後に遡る皇室への水面下の支援を証言してくれた。また世界有数の財閥ロックフェラー家のアーカイブでは、若き日の上皇の訪米時の記録を入手できた。
これらから浮かび上がったのは、「象徴」であるはずの昭和天皇が、まるで駆り立てられるように国際情勢のインテリジェンスを集め、また、それを陰で支援するネットワークが存在したという事実だった。そして米国や英国政府も、あらゆるルートで皇室の内情を探り、自らの国益のため利用しようとした。それは昭和から平成、そして令和へと脈々と続く歴史の裏のドラマと言ってもよい。
そして二〇一九(平成三一)年三月五日、まるで平成の終焉を見届けるようにクリッシャーが亡くなると、翌月末には天皇が退位して、令和の時代が幕を開けた。私の元には彼から託された二〇本のテープが残され、そして今、三代の天皇を巡る物語を語り始める時機が訪れた。
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