「よ、また会ったな、色男」
と言って、空いていた僕の隣にどかっと座ってきたのは、さっきグラウンドでタバコをあげた大男だった。〈色男〉はもちろん皮肉である。僕の容姿は田舎臭く、にもかかわらず垢抜けた彼女がいることを皮肉っているのだろう。
「オレは馬場っていうしがない絵描きさ。よろしくな」
と言って握手を求めてきたが、その息はすでにかなりアルコール臭かった。
「オマエは一年生かい?」
「いえ、その……二浪生です」
「あっはっは、なんだ浪人生か」
さすがに内心ムッとしたが、それはやはり外側にも出ていたようだ。馬場氏は急に取り繕うように、僕の肩を何度も強く叩いた。
「いやいや悪い悪い、悪気はないんだ。なんせ――オレは何浪したと思う?」
僕の顔を覗き込んだが、僕の答えは待たなかった。
「六浪だぞ? 六浪して、結局美大に行けなかった男だ。オマエなんてまだまださ。はっはっは」
馬場氏の叩く手にはさらに力が加わり、もはや痛いレベルだった。しかし気がついたことはあった。多摩美の芸祭にいる年長者は多摩美のOB、なんとなくそう思い込んでいたが、そんなことはないのだ。現に自分がここにいるように、部外者だってたくさん芸祭にはいるんだろう。
僕は自分の疎外感に囚われすぎていたようだ。そして言われてみれば馬場氏は〈六浪して美大に行けなかった〉〈しがない絵描き〉という自嘲的な自己紹介がしっくりくる、くたびれた雰囲気を全身に纏っていた。
「なんだ、縁起の悪い奴が隣に来ちゃったなって思ってるだろ」
「いえ、まさかっ」
内心を見透かされたような気がして、僕は強めに打ち消した。
「バカヤロウ、逆に縁起が良いんだよ、天才が隣に来たんだからよ。がっはっは!」
最後の高笑いはいかにも豪放だったが、取ってつけたような唐突さもあった。
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