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げいさい 短期集中連載 第二回

げいさい 短期集中連載 第二回

文:会田 誠

文學界4月号

出典 : #文學界

「文學界 4月号」(文藝春秋 編)

「しょうがねえなあ……。みんなわかっているだろうけど、この大学院一年の田中くんこそ、今回のパフォーマンスの真の作者であります――僕はちょっとお膳立てをしてやったまでのことで。この四ヶ月にわたるプロジェクトは、途中何度も空中分解の危機がありました。それをどうにかこうにか学生たちを纏め上げ、最終的にここまで形にしたのは、この田中の力量です。田中、よくやった、お疲れ。はい拍手ー」

 そんな感じでようやく乾杯となった。

 興奮冷めやらずしつこく乾杯を続ける学生たちを尻目に、隣の馬場氏が僕にしっかり聞こえる音量でつぶやいた。

「ふん、今や多摩美の助手長か……。関もすっかり偉くなったもんだぜ。ゆくゆくは助教授、そんでもって教授ってかァ……」

 それを聞いて僕は、馬場氏と関氏が同じような年恰好であることに気がついた。

「アイツはオレと予備校の同期でよ。アイツは一浪してあっさり多摩美に行ったんだけどな。昔は仲良かったんだよ、これでもな。アイツ、多浪してるオレのところによく遊びに来てくれたもんさ……」

 若さが弾けているようなこの酒席には似つかわしくない、場末の飲み屋のくたびれたオヤジのような口調だったが、正直僕は嫌ではなかった――充実感に酔いしれている学生たちの輪に入っていけるわけでもなかったので。

「昔アイツは絵は下手糞だったんだよ。デッサンは取れない、色感も悪い。でも努力家で、必死に頑張ってた。そこが良かったのよ。なのに大学三年の時にボヤッとした抽象画の方に行きやがった。卒制(卒業制作展)も見に行ったけど、あれはただの逃げだって、オレには一目見てわかったね。あんなんでよく大学院受かったと思うが……まあ、多摩美のレベルがその程度ってことさ……」

「はあ、なるほど……」

文學界 4月号

2020年4月号 / 3月6日発売
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