「わかります、あの試験問題があったからこそ、混乱したっていうか……」
熊澤さんは何か言いたそうにこちらをじっと見ていた。
「そして、熊澤さんもそうだった――ってことですね?」
熊澤さんは今度は二回、強く頷いた。
もう少し熊澤さんとその話を続けたいところだったが、そこにパフォーマンスをやった佐知子たちのグループがドヤドヤと入ってきて、そのまま中断された。大人数の彼らは、晴れの大舞台のプレッシャーから解放された高揚感で、全体的に声が大きくテンションが高く、四人でしんみりと昔話を語っていた僕らとはかなり温度差があった。
どこかの科から持ってきたと思しき作業台を四つくっつけた、店で一番大きなテーブル席は、またたく間にぎゅうぎゅう詰めになった。それでもまだ席にあぶれる人がいて、エアーキャップ(通称・プチプチ)で作ったクッションをビールケースに置いただけの椅子一つに、仲良し女子二人が座るようなところもあった。しかし立ちこめる煙や寒いすきま風も含め、そういう悪条件をむしろみんなで楽しんでいる風情があった。
偶然の流れだったのだろうが、佐知子はテーブルを挟んで僕とだいたい正面の席に座ることになった。お互いのことはよく見えるが、この喧騒の中、会話するのはちょっと無理な距離だった。佐知子が僕ら四人の方に小さく手を振って、ちょっとすまなそうな顔をした。『今はとりあえずこっちのグループの方にいるけど、あとでそっちに行くね』という合図だったのだろう。
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