三國連太郎さんと出会ったのは、三十年くらい前だ。その頃、私は仕事を始めたばかりだった。人生でいちばん幸せだった頃かもしれない。気力に満ちていたし、健やかだった。
ある日、私は都内の撮影所にいた。広くて暗い、倉庫のようなところだ。そこで、三國さんと会った。正確に言えば、見かけた。三國さんは大スターで、とても駆け出しのライターが近づける存在ではなかった。
親しくなったきっかけは、三國夫人だ。隅で、メモを取る私に声を掛けてくれたのである。
「あなた、よく来ているけれど、何しに来ているの?」
夫人は気さくな人で、まるで旧知の間柄のような雰囲気で話をした。彼女がもし、そういう人でなかったら、私が三國さんと知り合うことはなかっただろう。
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