さて、大岡とて会社員、嫌な仕事であっても上司に命じられた仕事を進めるしかなく、とはいえ人の心を持つだけに苦しむことになる。しかもだ。彼の業務においてある悲劇が起こり、大岡の心はさらに深く傷付いてしまう。だが江間は、その悲劇ですら残りの社員を退職させるうえで好都合と甲高く笑うのだ。まさに絵に描いたような悪役である。楡周平はさらに江間の傍若無人さを語るエピソードを積み重ねてその悪人像をくっきりさせると同時に、大岡の心労も丹念に語っていく。江間が江間だけに――そして江間と大岡の間に存在している課長が全く機能していないこともあり――読者の大岡への感情移入は加速し、彼の苦悩を共有することになる。このあたりの舵取りもまた見事だ。企業小説を多く描いてきた楡周平だけに、会社内の勢力図を巧みに操り、人と人との間に軋みを生じさせ、それによって読者にページをめくらせるのである。勢いよく。
心労に押しつぶされそうになった大岡が、妻の勧めもあって救いを求めた先が、プロボノを斡旋するNPO『MY LINK』だった。このNPOを通じて、彼は週末だけだが誇りを持てる仕事を得ることになる。それでもまだ本業では新たな首切りミッションを抱えて心が晴れない大岡を見かね、また、江間の悪辣ぶりを知って憤りを覚えた『MY LINK』の創設者たちは、大岡にあるプランを持ちかけた……。
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