そう、ここは邪教の巣だ。この家は光明が丘支部と呼ぶのだったか。いずれにせよ、まともな場ではない。普通の道理が通用する場所ではないのだ。
この家に初めて来た日のことを思い出した。毒々しい塑像。壁に掛かった教祖の写真。異形の祭壇。どれも不気味だった。禍々しかった。そして恐ろしかった。今も怖くないと言えば嘘になる。目に映り込むそれらに、なるべく視線を向けないようにしている。
「どうして……?」
茜が洟を啜りながら言った。わたしは優しく、穏やかに答えた。
「助けに来た。一緒に逃げよう」
「無理だよ。逃げたら殺される。どこに逃げても殺されちゃうの」
「逃げたら殺されないよ。殺されないところまで行くのが逃げるってことだよ。今からそこに行くの」
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