彼女は訊ねた。
「……こ、こんな身体でも?」
「もちろん」
「ほんとに?」
「本当だよ」
「信じてもいい?」
「うん。だから一緒に逃げよ――」
「おい、慧斗」
背後から呼びかけられて、わたしは飛び上がった。
廊下の暗がりから祐仁が現れた。畳んだ車椅子を両手で抱えている。怒ったような顔で彼は言った。
「何ちんたらしてるんだよ、あいつら戻ってくるぞ」
「無理に連れ出したらただの拉致でしょ」
「融通利かないなあ、お前」
囁き声でぼやく。場違いを承知でわたしは笑いそうになった。祐仁はいつもこうだ。クラスで誰よりも大柄なのに、誰よりも臆病だ。それに物事の優先順位をまるで分かっていない。大人たちから余計な知識を得すぎたせいだろう。でも今は心強い。彼といると心に余裕が生まれる。
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