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『邪教の子』澤村伊智――立ち読み

出典 : #別冊文藝春秋
ジャンル : #小説

別冊文藝春秋 電子版31号(2020年5月号)

文藝春秋・編

別冊文藝春秋 電子版31号(2020年5月号)

文藝春秋・編

くわしく
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「別冊文藝春秋 電子版31号」(文藝春秋 編)

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 娯楽小説の真似をして書いてみたが、こうして思い出し、書き綴るだけで心臓が縮み上がる。手は汗ばみ、胃袋が持ち上がる。あの頃のわたしは幼く、無謀だった。もっと穏便な手はあったはずだ。誰も傷付けることなく、誰も血を流すことなく茜を助け出す手が。

 だが子供のわたしには思い付けなかった。

 わたしがしたことは決して偉業などではなかった。称讃を受けるに値しない。むしろ愚行だった。これを読むあなたは、決してその点を勘違いしないでほしい。だが、この経験がいまのわたしを、わたしたちを形成したことは間違いない。

 だから余すことなく記そう。事実を。真実を。

 わたしがどのような経緯で飯田茜と出会ったかを。如何にして彼女の置かれている状況を知り、助け出そうとしたかを。

 結果、わたしたちがどうなったかを。

別冊文藝春秋からうまれた本

電子書籍
別冊文藝春秋 電子版31号(2020年5月号)
文藝春秋・編

発売日:2020年04月20日

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