「怖いよな、そりゃ怖いよな」
そうつぶやきながら祐仁が申し訳なさそうな顔で茜に近寄る。茜は壊れた機械のように首を横に振っている。声も出せないほど怯え、縮こまっている。
「分かるよ。僕を怖がるのは当然だから。でもさ、慧斗のことは信じてほしいんだ。こいつは本当に茜ちゃんのことを助けたいと思ってる」
いつになく真剣な口調だった。
茜はわたしを見た。わたしはしゃがんで目の高さを揃え、彼女を見返した。早くしないと大人たちが戻ってくる。焦燥感が暴れ出したが、つとめて平静を装った。
息詰まるような沈黙が続いた。
彼女の震えが収まったところで、わたしは言った。
「逃げよう」
茜は小さくうなずいた。
祐仁に抱えられ、車椅子に座る。二人がかりで姿勢を調整し、玄関に引き返そうとするも、車椅子があちこちに引っ掛かって思うように進めない。ここへ来て詰めの甘さ、段取りの悪さが露呈していた。綻びが徐々に大きくなっていた。
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