書評

世間を知らない少年の声が、大人に響く

文: あさの あつこ (作家)

『風に恋う』(額賀 澪)

『風に恋う』(額賀 澪)

 これが新人の作なのかと、舌を巻き、この作家に幸あれと祈る……わけもなく、「若えくせして、こげなもの書きやがって」と妬ましくて、悔しくて、本棚の隅に押し込んで忘れようとした(我ながら、何とせこいのだろう。冷汗が出てきた)。

 〇〇さんからの依頼がなかったら、わたしは額賀澪の作品を封印したままだったかもしれない。いや、違う。封印したままではいられなかった。いつか、本棚の隅からおそるおそる取り出して、初めて読んだときと同じく、夢中で読み耽ることになっただろう。そうでなければ、『風に恋う』の解説を二つ返事で引き受けたりしなかったはずだ。

『屋上のウインドノーツ』の作者が再び、高校の吹奏楽部を舞台に物語を紡いだ。今度は少年が主人公だ。とくれば、読むしかない。わたしに読まないという選択はできなかった(締め切りを延ばしてくれと駄々はこねたが)。

 書き手としては妬ましさや悔しさを、また、たっぷり味わうことになるかもしれない。それはそれで苦しくも辛くもある。けれど読み手としては、生きた人間の、しかも少年少女の日々を、闘いを、心の裡を実感として摑める読書体験は快楽以外の何物でもない。

風に恋う額賀澪

定価:本体790円+税発売日:2020年06月09日


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