昭和二年生まれの少年たちは当時、国を愛し郷土に誇りを抱き、父や母、家族のために命を捧げても構わないと、心底から考えていた。その純粋無垢な真情に、偽りはない。
だからこそ城山少年は十七歳で海軍特別幹部練習生を志願し、大竹海兵団に入団。わずか三カ月で敗戦をむかえたが、戦争が継続していれば、特攻兵として戦死したことはまちがいない。
東京・日暮里生まれの吉村昭の場合は、少年時代、中国の首都「南京陥落」を祝って提灯行列に狂喜する近所の人たちがあり、日米開戦後はシンガポール陥落、マニラ攻略の戦勝のたびに街角の大看板に掲げられた大地図に競いあって日の丸の旗をピンで刺す大人たち……。皆が喜々として、だれひとり「戦争反対」などと、口にする者はいない。
そんな空気の中で吉村少年は育ち、開成中学時代、勤労動員の途中で肺浸潤を患い、療養した。昭和二十年八月、徴兵検査を受け、第一乙種合格となるが、敗戦。
わずか一カ月で、戦時下から一転して戦後の混乱期に激変した。日の丸が消え、星条旗が市街にあふれ、街の男女がジープに群がる戦後日本への違和感は、二人の昭和二年生まれの作家に拭(ぬぐ)いがたい不信を抱かせた。
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