『初めて敵を見た時、口惜(くや)しくて。手榴弾でやっつけたかった』」
比嘉二等兵は前線への食料運搬と負傷者の後方移送の任務があたえられ、志願した斬込隊員には選ばれなかった。地獄の戦場で、米軍の艦砲射撃に身をさらしながら必死に生きぬいてゆく少年兵……。死体の山に身を隠しながら、あくまでも戦いを止めない鉄血勤皇隊員。作者の思いは比嘉少年の行動に托される。
そして比嘉真一少年兵が目にしたのは、「手榴弾を一つゆずってください」と自決用に懇願する昭和高女の女子生徒の思いつめた顔である。そしてまた、米兵の投降を呼びかけるスピーカーに海岸の岸壁に追いつめられた住民の女性が「もうおしまいですね」とつぶやく声。
「やがて、女生徒たちが立ち上った。
『お世話になりました。ありがとうございました』
彼女たちは、丁重に頭をさげると、小柄な女生徒の体をかかえるようにして崖下へおりていった」
これこそまさしく国に殉じた人たちの物語であり、作家吉村昭が体感した慟哭(どうこく)と十五歳の少年時代への魂の遍歴にほかならない。
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