とくに、「兵役世代」の第三の新人グループのひとりが徴兵検査のさい、醬油をたらふく飲んでおいて不合格となり、戦争忌避(きひ)をつらぬいたと自慢げに書いているのを知り、吉村氏が激怒する表情を直接見たことがある。
「たとえ徴兵拒否に成功したとしても、代わりに同じ世代の若者がだれかひとり、戦場に送られるだけじゃありませんか」
日ごろ温厚な吉村氏が、珍しく険しい顔つきで語気を強めた。
「それは戦争反対とか、徴兵拒否でも何でもない。単に卑怯なだけじゃないですか」
二
吉村昭氏は自作を語るエッセイ集の中で、本書執筆の動機を明らかにしている。
それによると、戦争記録を読み進めている中に、沖縄戦で中学二年生以上の生徒が陸軍二等兵として戦闘に加わり、多くの中学校生が死にさらされていたことに驚きを感じた。
鉄血勤皇隊がその隊名であり、「比嘉真一陸軍二等兵」が主人公のモデルに擬せられた名前である。
少年兵は十五歳で、吉村氏より二歳年下。背丈は低く「軍服はダブダブ」。兵器は不足していて、竹槍と手榴弾を与えられた。これで、日本列島唯一となった沖縄地上戦を戦うのである。
「体の小さい少年の必死の戦争が、そこにはあった」し、「もしも私が沖縄県下の中学生生徒であったら、同じような戦争を経験した」と、作家は書く(『万年筆の旅』)。
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