さて、沖縄戦といえば連合国軍の戦艦、空母あわせて三九隻、攻略艦船一五〇〇隻、兵員一八万三〇〇〇名。一方の日本側は陸海軍兵約九万五〇〇〇名。圧倒的な物量差の戦闘だが、入隊第一日の比嘉二等兵の高ぶる昂揚感は押さえがたいものがある。
「老幼婦女子を守るために、郷土を守るために、自分のこの肉体が要求されている。鉄血勤皇隊か、……その言葉のひびきは、かれに満足感と優越感をあたえてくれた」
この比嘉二等兵の感懐こそ、昭和二年生まれの作家吉村昭そのものといえる。沖縄戦では、同じ世代の少年たちが銃をとり凄絶な戦闘の中で死にさらされていた。「他人事ではない」と衝撃を受けた作家は、もし沖縄に生まれていれば「鉄血勤皇隊の一員となり、銃をとっていた」と切実な思いでこのテーマに取り組んだ。
沖縄戦の取材は、いつものように徹底をきわめた。「鉄血勤皇隊だけでなく、納得がゆくまで滞在したい」と決めた吉村氏は、那覇市内に長期滞在用アパートを借りうけ、結局取材期間は二十日間を越えた。交換した名刺は八十枚を数えた。
まず、沖縄県民全体の戦闘を知るために県庁関係者、鉄血勤皇隊の編成、実態を知るために県庁警察部、その他各部門。吉村氏は県庁関係者のだれもが慕う島田叡(あきら)長官(県知事)の名前を文中で挙げている。
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