- 2020.07.22
- 書評
「女は、怖い」のではない。「怖いから、女」なのだ
文:酒井 順子 (エッセイスト)
『ウェイティング・バー』(林 真理子)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
噓をつかれたり、裏切られたりする度に、“ああ、人間って怖い生きものなのだな”ということがわかってくる。初めて他人から裏切られるという経験をした晩には、ベッドの中で泣きまくりつつ、“ああ、人間なんてちっとも信用ならない。幽霊にでもこの胸のうちを相談したい……!”と思ったものです。
しかし、他人に対して恐怖を感じているだけでは、本当の人間の怖さを知ったことにはなりません。「こんなにひどい人がいる」「あの人は怖い」と言っているうちは、まだ“自分だけは、いい人だ”という幸せな思い込みをすることができるのです。が、ふとしたきっかけで、自分の中にも暗くて汚い部分があることを発見した瞬間。これは、怖いですね。
それまでは、他人の悪口を言ったり、噓をついたりしていても、「私がこのような行動をとるのには正当な理由があるのであって、私が悪い人間だからではない」と信じていたのに、ある瞬間、「そうではないのだ。私自身の根本に、確実に『悪』があるからこそ、私はあくどいことをするのだ。悪事をはたらくのに『正当な理由』などあるわけがなく、それは自己正当化のためのいいわけにすぎない!」ということが見える。それまで気づかなかった、もしくは気づかないフリをしてきた自分の中の「悪」の穴のフチに初めて立って中をのぞきこむと、あまりに暗くあまりに深いその穴に、吸い込まれそうになって、目が眩む……。
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