- 2020.07.22
- 書評
「女は、怖い」のではない。「怖いから、女」なのだ
文:酒井 順子 (エッセイスト)
『ウェイティング・バー』(林 真理子)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
とはいえその秘密組織では、構成員同士で悪事の成果を報告し合ったり、讃え合ったり、裏の手を教え合ったりすることは、まずありません。構成員同士は、同時に敵同士でもあるのです。ただ一つその結束を支えているものがあるとすれば、「自分達が抱えている『悪』を、決して男性にバラさないこと」という不文律のみ。
そんな秘密組織にとってこの本は、会報であると同時に、男性に対する詳細な密告書でもあります。「怖いなぁ」と思ってもすぐに忘れるという男性の特性をよくご存知の林さんならではの、男性に対する遊びの仕掛け、のようなものだとは思いますが。
世の中に、怖いお話はたくさんあります。しかし幽霊よりも人間が怖い私は、魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈(ばっこ)するホラー小説よりも、ごく普通の人間しか出てこない本書の方が怖いのでした。
料理でも、特別に高価な素材を使えば、誰がどう料理してもある程度おいしくなりますが、普通の素材を使った場合はモロに実力が出るといいます。特別な素材や珍奇な素材をあえて選ばずして、舌がとろけそうな「恐怖」や「笑い」や「涙」を料理することができる林真理子さんは、やっぱり当代一流のシェフであり、どうしてもその料理店に通いつめてしまう私なのでした。
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