- 2020.07.30
- インタビュー・対談
航空機設計のプロが描く「国産民間機」開発プロジェクト暗闘のすべて――『音速の刃』(未須本 有生)
「オール讀物」編集部
Book Talk/最新作を語る
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
航空機技術の世界との格差
「航空技術者たちの理想を、今回の小説には注ぎ込みました」
こう話す著者は、東京大学工学部航空学科を卒業後、大手メーカーで航空機の設計に携わった。さらにその後はフリーのデザイナーとしても活躍。知識と経験を活かし、これまでも戦闘機やドローンなどの開発をめぐって鎬を削る技術者たち、ライバル会社間の駆け引きなど、圧倒的リアリティで航空小説を描いてきた。
「日本の航空機メーカーは、〈官〉からの受注、つまり自衛隊のための航空機を作っているわけですが、どの企業も民間機を作りたいという願望を持っています。たとえば三菱重工のMRJ開発も話題になりましたし、川崎重工もヘリコプターを製造しています。戦闘機は空中を自在に機動できるという魅力はありますが、販売という観点からは民間機の方が自由度が高く、しかも市場は国内だけでなく世界中に広がりますからね」
本作『音速の刃』では、国内航空機メーカー・四星工業が、中型ビジネスジェット、YBJの開発に乗り出すことになる。それを牽引するのが社内で絶大な権力を握っていた取締役の宮迫淳吾。彼に抜擢されたのが、若きエンジニアの長谷川稔だ。「官需体質からの脱却」をスローガンに、強引にプロジェクトは推し進められていく。
「最近ではF-35を日本政府が大量に購入し、それが墜落事故を起こしたことが問題視されましたが、そもそも世界の航空機と日本の航空機の技術レベルの差は開く一方。独自の技術の開発には莫大な費用がかかるのでかなり難しいわけです。二十年くらい前に、軽量で機能や装備がシンプルな高機動機の開発を目指していれば、状況はかなり違ったはずだという、残念な気持ちもあります」
未須本さんのビジョンは小説内では実現され、四星工業は数多を犠牲にしながら難題をクリアし、TF-1という超音速機の生産にこぎつけている。TF-1開発の立役者ともいえる技術者の沢本由佳が、この機を改良することで新しい活用法を見出していくのが、本書のもうひとつの物語の軸だ。才能あふれる沢本を、長谷川は密かに羨んでおり……。
「多額の開発費をかけて実現したものを改良していく努力も、やはり必要だと思います。ところが新しいものの開発の方が、どうしても点数稼ぎになるので(笑)、そこもなかなか難しいんですが」
YBJ開発とTF-1改良の先に待ち受ける驚愕の最終決断を、ぜひ読者自身の目で確認してほしい。
みすもとゆうき 一九六三年長崎県生まれ。東京大学工学部航空学科卒業。二〇一四年『推定脅威』で松本清張賞受賞。『リヴィジョンA』『絶対解答可能な理不尽すぎる謎』ほか。
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