- 2020.08.27
- インタビュー・対談
その「苦しみ」が未来をつくる――住野よる×松本穂香、もがく二人の青春対談
聞き手: 別冊文藝春秋
映画『青くて痛くて脆い』公開記念(別冊文藝春秋 電子版33号)
青春を感じるおすすめの本
住野 今回の作品のテーマにちなんで、青春を感じさせる本なんて、何かありますか?
松本 青春といったら一般的にはさわやかなイメージのほうが強いかもしれませんが、私はそうは思わなくて。私がおすすめするなら、じめっとして湿度の高い学生時代を描いた、村田沙耶香さんの『しろいろの街の、その骨の体温の』です。うまく言えないんですが、読んでいて自分のことのようだと思いました。読むたびに号泣してしまう本です。いろんな人に読んでほしいです。
住野 そんなに深く入り込める本があるのは、幸せなことですね。
松本 十代のときに抱えていたモヤモヤ、その感情を言葉にしたら、この小説の形になるのかなと思います。高校時代は特にですけど、自分に自信がなかったので。
住野 自分のことが書いてあると思える作品って、自分を救いますよね。
松本 すごくわかります。外に出せずに苦しんでいた感情と向き合えるようになったり、なんだか楽になるような気がします。住野さんの青春を感じさせる一冊は?
住野 阿川せんりさんという小説家の方がいらして、僕はその方のデビュー作『厭世マニュアル』をおすすめしたいですね。主人公は大学生の女の子なんですが、常にマスクをしていて、自分のことを「口裂け」と呼んでいるんです。主人公の決断に対して、読者は「え、本当にそっちでいいの?」と思ってしまう感じです(笑)。読後の感情は『アストラル・アブノーマル鈴木さん』に似ているかもしれません。だけど、主人公の中では確実に何かが進んでいて、最終的な着地点が素晴らしいんです。こういう日々のことを青春というのかなと思える小説です。
松本 かなり激しそうな小説ですね(笑)。
住野 そうなんです。実はもう一冊、こちらは漫画なんですが、柴田ヨクサルさんの『東島丹三郎は仮面ライダーになりたい』という作品があって。子供のころから仮面ライダーになりたいと思い続けている無職の男が、四十歳まで体を鍛え続ける話なんです。
松本 衝撃的ですね(笑)。
住野 仕事はしてないけど、山籠もりして鍛えているからめっちゃ強いんですよ。で、縁日に行ったその男の前にショッカーの格好をした強盗が現れるんですね。そのときとっさに、近くのお面屋さんで買った仮面ライダーのお面をつけて、強盗に対峙するんです。「何だテメ…」と訊かれて、主人公は「仮面ライダー」って答える。そのあとがいいんですよ……。強盗が主人公の顔を見て、「何で泣いてる?」って声を掛ける。その瞬間にものすごく青春を感じます。
松本 面白そうですね(笑)。読んでみます。
住野 間違いなく青春を味わえるので、ぜひ読んでみてください。
衣裳協力:Y’s/ワイズ 03-5463-1540 スタイリスト:道端亜未/Ami Michihata 撮影:佐藤亘
すみの・よる 高校時代より執筆活動を開始。デビュー作『君の膵臓をたべたい』がベストセラーとなり、二〇一六年の本屋大賞第二位にランクイン。著書に『また、同じ夢を見ていた』『よるのばけもの』『か「」く「」し「」ご「」と「』『麦本三歩の好きなもの』。『青くて痛くて脆い』は二作目の実写映画化。
まつもと・ほのか 一九九七年大阪府生まれ。高校在学中に女優デビューを果たし、NHK連続テレビ小説『ひよっこ』への出演で一躍脚光を浴びる。二〇一八年にはドラマ『この世界の片隅に』で連続ドラマ初主演。二〇年も、ドラマ『病室で念仏を唱えないでください』や、主演映画『酔うと化け物になる父がつらい』など、次々と出演作が公開された。『青くて痛くて脆い』では、秘密結社サークル「モアイ」の幽霊部員ポンちゃんを演じる。今秋には主演映画『みをつくし料理帖』の公開が控える。
映画『青くて痛くて脆い』公式サイト
https://aokuteitakutemoroi-movie.jp/
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