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YOASOBI「僕たちのルーツと、いま目指すミライ」

YOASOBI「僕たちのルーツと、いま目指すミライ」

聞き手:別冊文藝春秋

別冊文藝春秋 電子版33号

出典 : #別冊文藝春秋
ジャンル : #小説

 ボカロPとしても活躍するAyaseとシンガーソングライター・ikuraが結成したYOASOBIは、「小説を音楽にする」をテーマとして活動するユニットだ。2019年11月に発表された楽曲「夜に駆ける」は、TikTokなどのSNSで注目を集め、YouTubeで配信されたミュージック・ビデオは公開から半年で2500万回再生を記録した。

 Ayaseが切実なテーマをビビッドな旋律にのせ、ikuraが一度聴いたら忘れられない澄んだ声で奏でる。いま最注目の「物語」を紡ぐふたりの素顔とは――。

「原作小説」のある音楽

――YOASOBIとしての活動を始められた経緯について、改めて教えてください。

Ayase 2019年にmonogatary.com(モノガタリードットコム)という小説投稿サイトのスタッフさんから「小説を音楽にするユニットをやりたい」とお声がけ頂いたのがきっかけです。かつてない企画で面白そうだと思いました。その後、Instagramでカバー曲の弾き語りをしていたikuraの動画を見つけて、ボーカルとして声をかけました。

ikura コンセプトを聞いたときは「一体どんなふうになるんだろう?」と想像が追い付かないところもあったのですが、Ayaseさんがこれまでに作ったVOCALOID曲を聞いて、一緒にやってみたいと思いました。

Ayase monogatary.comでは小説コンテスト(「モノコン2019」)を行っていて、大賞はショートムービーやコミック、ミュージック・ビデオなど、部門ごとに設けられた形で作品化されます。「夜に駆ける」の原作である『タナトスの誘惑』(星野舞夜著、ソニーミュージック賞受賞)もその一つです。僕も選考に携わったのですが、そもそも小説を音楽にするということ自体が初めての試みだったので、どんな小説が曲にしやすいのかもわからなくって。まずは小説単体として純粋に魅力的なものを原作にと思い、受賞作が決まりました。

ikura Ayaseさんから1曲目のデモテープをもらってようやく方向性が摑めました。初めて彼に会ったのはその後、「夜に駆ける」のレコーディングの打ち合わせのときでした。

――Ayaseさんにお訊きします。VOCALOID曲と、YOASOBIでの曲作りに違いはありますか?

Ayase 実は、作り方にはほぼ違いがないんです。VOCALOIDも、他の方への提供曲も、YOASOBIも同じです。ただ、YOASOBIでは原作小説によって、自分ひとりだけでは生まれなかったフレーズに出会えるので刺激的ですね。たとえば、「たぶん」(2020年7月20日配信。原作『たぶん』)のときも、世界観には僕がそれまで描いてきたものと重なるところがあったけれど、そこに「たぶん」という言葉を置く発想が自分にはなかった。

「夜に駆ける」は自殺を図る少女の話で、テーマ自体は、僕がVOCALOID曲として作った「ラストリゾート」と通じる部分があります。「ラストリゾート」は、自分自身が精神的に追い詰められていたときに、死んでしまっていたかもしれない僕自身のアナザーストーリーとして書きました。一方、「夜に駆ける」は自殺願望のある少女からは少し距離をおいた視点で話が進みます。このように、原作小説に登場人物がいることで、同じテーマでも違った切り口で表現できるようになりました。

 僕はシリアスなテーマであればあるほど、曲調はキャッチーなものにすることを心がけています。グロテスクなものを直接的に表現することも避けたい。でも、内包されたえぐみにはある種の美しさを感じます。聴いてくださっている方には、ビビッドな表現に覆い隠されたダークなものを見つけたときの、ぞわっとする感覚を楽しんでほしいです。

――ikuraさんは歌うときに、原作のイメージはどのくらい意識されますか?

ikura 原作小説の味わいをそのまま知ってもらいたいという思いと、音楽に翻案したことによる広がりを楽しんでほしいという気持ち、どちらもあります。バランスには悩みますね。私ができるのは主人公の心情を代弁すること。とにかく原作を読みこんでから歌っています。声質も原作にあわせ、登場人物を意識して変えています。「夜に駆ける」は男性視点の物語なので中性的な声で、「ハルジオン」は恋する女の子のお話なので柔らかい声を意識したり。小説内での主人公の心情の変化に寄り添えるよう、曲の途中でドラマチックに歌い方を変えたりもしています。

音楽とともに生きる

――おふたりの音楽的ルーツについても教えてください。

Ayase 小学生のときにテレビでEXILEさんを観たのが、僕の音楽への入り口でした。以降はaikoさんやスキマスイッチさんなど、J-POPの最前線にいらっしゃるアーティストを聴いていて。中学生のときは、マキシマム ザ ホルモンさんに夢中でした。それまでぼんやりと抱いていた歌手になりたいという思いが、「バンドのボーカルをやりたい」という具体的なものに変わったのもその頃です。YOASOBIの歌は語感がキャッチーだと評して頂くことが多いのですが、母音やリリックに拘っているのは、マキシマム ザ ホルモンさんの影響が大きいです。

ikura 私は幼少期からディズニー・チャンネルを観て育ちました。特に「ハイスクール・ミュージカル」(ディズニー・チャンネルオリジナルのミュージカル映画シリーズ)がお気に入りで。「ハイスクール・ミュージカル」に出演していたアーティストを追いかけるようになり、そこから洋楽にどっぷりと浸りました。中学のときはテイラー・スウィフトさん。YUIさんのベストアルバムも繰り返し聴いていましたね。アコースティックやカントリーが私の原点です。

Ayase 小さい時から音楽は生活の一部だったので、自分で作ったメロディをよく口ずさんだりしていました。バンドの活動を始めて、初めて1曲書き上げたのは16歳のとき。「赤い月」という曲でした。当時切実に感じていた青春時代特有の葛藤や、夢に向かうことへの決意表明のような気持ちを込めたものでした。バンド活動中、結局「赤い月」よりいい曲は書けなかったんです。

ikura その話、初めて聞きました! 私は小学生のころからギターをもって学校に行くような子でした。当時は音楽に興味がある友人が少なくて、周りからは物珍しく思われていたのかも。初めて作った曲は小学校の卒業式のときに、親友に向けてプレゼントしたものです。

――おふたりが曲を作りたくなるのはどんなときなのでしょう?

Ayase タバコを吸っているとき、トイレに行っているとき、シャワーを浴びているとき。根を詰めて作業をしたあと、ふと立ち上がって無心になっているときがいちばんいいんです。僕はメロディが最初に降りてきて、そこに歌詞をのせていきます。最近、歌詞に使えそうなフレーズを思いつくとメモをとるようにしています。aikoさんの「恋のスーパーボール」という曲に、〈日焼け止めを綺麗に洗いきれずに 夜中に腕が 夏の匂い〉という歌詞があるんです。これだけで、誰もが思い出せる情景がありますよね。そんな、普段は敢えて口には出さないけれど、皆が共有できる何気ない感情やシチュエーションを蓄えています。どんなにファンタジックな世界のお話でも、フレーズひとつで一気に聴いている人のリアルな毎日とリンクする。YOASOBIではそんな言葉を紡げればと思っています。

 新曲「たぶん」は僕自身の体験と重なるところが大きかったので、スラスラと出来上がりました。寝起きで原作小説を読んで、その瞬間にメロディとキーワードが思い浮かび、一気に作り上げられました。

ikura 私は、空気や太陽のうつろいを感じると曲を作りたくなります。夜中からだんだん白んでいく朝方や、夕日を見ながら歩いたり電車に揺られていたりするとき。これも無心になれるからでしょうか。まずどんな曲を作りたいか、テーマや使いたい歌詞から考えます。

ミュージシャンにとっての「物語」

――好きな小説についても教えてください。

Ayase 初めて読んだ長篇小説は「ハリー・ポッター」シリーズでした。そこからファンタジーが好きになり、小学生のときには「デルトラ・クエスト」シリーズ(エミリー・ロッダ著、岡田好恵訳、岩崎書店)に夢中になりました。もともと「仮面ライダー」などの戦闘ものが好きで、今でも漫画や映画でバトルものをよく観ます。リアルな世界の中にも、フィクションや理想を織り込んでいく僕の曲の作り方は、触れてきた作品の影響を感じますね。

ikura 恋愛小説をよく読みます。有川浩さんの『クジラの彼』(角川文庫)は、私の恋愛観を変えた本。なかなか会えない潜水艦乗りの男性との恋を通して、恋愛において「待つ」ことのロマンを感じました。三浦しをんさんの『きみはポラリス』(新潮文庫)、こちらは形にとらわれない恋を描いた短篇集で、一見一般的ではない関係ばかりですが、ある種の普遍性があり、大好きな作品です。

 私は小中学生のとき、自分の理想が周りとずれているのではと悩んでいたのですが、そんなときに励まされたのが宮下奈都さんの『ふたつのしるし』(幻冬舎文庫)でした。違和感を排除するのではなく、自分の大切にしているものを真っ直ぐ持ち続けることの大切さを教えてもらえた気がしています。糸井重里さんのエッセイ集『ボールのようなことば。』(ほぼ日文庫)も読み返したくなる作品です。ハッとさせられる言葉に助けられています。

――最後に、YOASOBIの今後の展望や、個人的にチャレンジしてみたいことを教えてください。

Ayase 普段音楽をそんなに聴いていない方にも聴いてもらえたら嬉しいです。僕もikuraも、小さい時からずっと周りに音楽があったので、音楽なしの生活が想像できないところがあったのですが、周りの友人たちを見渡すと、音楽と接するタイミングがない方もたくさんいるんだなと。そんな方々にも「音楽っていいな」と興味をもってもらえるきっかけになったらいいですね。YOASOBIでは原作小説の書き手やミュージック・ビデオのアニメーターなど、様々なジャンルのクリエイターが関わってくれています。今までの音楽シーンにはなかったフックがあるので、これからも新しい出会いをたくさん演出できたらと思っています。

 楽曲については、アクションものを原作にした激しめの曲調の作品も手掛けてみたいなと思っています。小説のジャンルとしてはホラーやサスペンスも好きなのですが、歌にするのはなかなか難しそうなので、まずはアクションから。

ikura YOASOBIは今まで恋愛の曲が多かったので、友情についても歌ってみたいですね。原作小説にさせて欲しい本……それなら、森絵都さんの『カラフル』(文春文庫)ですね。私が小学生のときに、初めて最後まで読み通せた小説なんです。ファンタジックでありながら、多様な愛の形が描かれていて感動しました。そんなあたたかい世界観を曲にのせて表現できたらと夢見ています。

Ayase 個人的な願望でいうと、僕はロックスターになりたいという思いがずっとあるので、そこは貫きたいですね。

ikura 私はジャンルにとらわれず、ロックもカントリーもアコースティックも歌いこなせる人になりたいです。エッセイなど、別の表現にもチャレンジできたらいいな、とも。いまはデザインにも興味があるので、CDジャケットのデザインや、ミュージック・ビデオなどの映像にもいつか手を伸ばせたらと思っています。

Ayase できるかわからないけれど、小説にもいつか挑戦したいなあ。僕が小説を書いたら、ikuraちゃんが曲を作ってくれる?

ikura それはまた新しい扉が開く気がします!

歌詞引用「恋のスーパーボール」 作詞・作曲 AIKO
スタイリスト:千野潤也 ヘアメイク:原康博(LIM)


◎インタビューの模様は一部、音声でもお楽しみ頂けます


プロフィール

YOASOBI コンポーザーのAyase、ボーカルのikuraからなる、「小説を音楽にするユニット」。2019年11月に公開された第1弾楽曲「夜に駆ける」は公開1か月でYouTube100万回再生を突破、20年4月には1000万回再生、6月には3000万回再生を達成。Billboard Japan Hot 100やオリコン週間 合算シングルランキングで1位を獲得し、ストリーミング総再生回数は7月に1億回を突破。第2弾楽曲「あの夢をなぞって」は原作小説の漫画化が決定、第3弾楽曲「ハルジオン」では飲料や映像作品とのコラボレーションを果たし、7月20日に第4弾楽曲「たぶん」をリリース。原作小説の書籍化も発表され、さらに展開の幅を広げている。

Ayase 1994年4月4日生まれ、山口県出身。2018年12月にVOCALOID楽曲を投稿開始。切なさと哀愁を帯びたメロディ、考察意欲を搔き立てる歌詞で人気を博し、19年4月に発表した「ラストリゾート」はYouTubeで500万回再生を突破。19年11月リリースの初EP「幽霊東京」は即売、通販共に即完売。ボカロ楽曲を自身が歌唱するセルフカバーにも定評があり、「幽霊東京」は500万、「夜撫でるメノウ」も300万回再生を突破。ボカロP、YOASOBIのコンポーザーとしての活動に加え、さまざまなアーティストへの楽曲提供も手掛ける2020年最注目のアーティストである。

ikura シンガーソングライター・幾田りらとして活動するかたわら、シンガーソングライターによるアコースティック・セッション・ユニット“ぷらそにか”にも参加。2019年11月におこなわれた原宿ストロボカフェでの1stワンマンチケットは完売。話題を呼んだ「東京海上日動あんしん生命」CMでの歌唱など、一度聴いたら耳を離れないその歌声が注目を集めている。

別冊文藝春秋からうまれた本

電子書籍
別冊文藝春秋 電子版33号(2020年9月号)
文藝春秋・編

発売日:2020年08月20日

プレゼント
  • 『もう明日が待っている』鈴木おさむ・著

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    応募期間 2024/3/29~2024/4/5
    賞品 『もう明日が待っている』鈴木おさむ・著 5名様

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