- 2020.10.14
- 書評
恐怖小説から抱腹絶倒のホラ話まで――物語の珠玉の詰まった福袋
文:風間 賢二
『マイル81 わるい夢たちのバザールI』『夏の雷鳴 わるい夢たちのバザールII』(スティーヴン・キング)
「マイル81」Mile 81 (初出 電子書籍 二〇一一年 A類)
初期傑作短編「人間圧搾機」と同種の悪趣味B級お馬鹿ワールド炸裂の秀作。『クリスティーン』(一九八三)や『回想のビュイック8』(二〇〇二)にも連なる自動車ホラー。人によっては、「スタンド・バイ・ミー」(一九八二)のようなひと夏の経験ならぬ一日の異様な体験をとおして語られる少年の成長物語としても読めるでしょう。
「プレミアム・ハーモニー」Premium Harmony (初出〈ニューヨーカー〉誌 二〇〇九年十一月九日号 B類)
タイトルの「プレミアム・ハーモニー」はタバコの銘柄だが、意訳すれば「見事な調和」、あるいは「仲睦まじい」。で、面白いのは、本短編は関係が剣呑な中年夫婦の話である点。そして、旦那のすごく底意地の悪い想いが笑えます。
「バットマンとロビン、激論を交わす」Batman and Robin Have an Altercation (初出〈ハーパーズ〉誌 二〇一二年九月号 B類)
タイトルからDCコミックのスーパーヒーローもののパスティーシュと期待して読むとあてがはずれます。アルツハイマー病あるいは認知症を患う高齢の父親と中年の息子の話です。それがどうしてバットマンとロビンであるのかは読んでのお楽しみ。前半のしみじみとした話からラストのキング節炸裂の展開はうれしい想定外です。
「砂丘」The Dune (初出〈グランタ〉誌 二〇一一年秋号 B類)
近日中に死ぬ人の名前がいつのまにか記される砂丘を題材にしたスーパーナチュラル・ホラーとしてA類に入れてもよいのだが、なにしろ主として語っているのはかなりのご高齢。つまり、〈信用のおけない語り手〉かもしれない。となると、キングが気に入っている斜め上を行くラストの幕切れも実は……。
「悪ガキ」Bad Little Kid (初出 本短編集 二〇一五年 A類)
語り手の男が幸せな時にかぎって突然どこからともなく出現する、いわば超絶邪悪なクレヨンしんちゃんが〈ケツだけ星人〉をやって相手を悲劇に陥れる話。人生は不条理なもの。不幸が起こる理由などない。起こるから起こるのだ、といったキングの創作する物語の基調音が鳴り響く作品です。「バッドボーイ」はドイツのスター・クラブでビートルズがおこなったライブでのレパートリー曲だったことにうたがいはない、とキングが「著者の言葉」で述べているので、検索して調べましたが、当時のビートルズの演奏曲目リストにジョン・レノン愛唱の「バッドボーイ」はないようです。
「死」A Death (初出〈ニューヨーカー〉誌 二〇一五年三月九日号 B類)
名づければ、ウエスタン・ノワール。西部開拓時代が背景。少女が殺害され、知的障害をもつ黒人が容疑者として逮捕される。人種差別、冤罪、誤認逮捕、裁き、正義、そして死刑。なにやら『グリーン・マイル』めいていますが、“汚い”ラストにびっくり仰天、そして大笑いさせられます。
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