- 2020.10.14
- 書評
恐怖小説から抱腹絶倒のホラ話まで――物語の珠玉の詰まった福袋
文:風間 賢二
『マイル81 わるい夢たちのバザールI』『夏の雷鳴 わるい夢たちのバザールII』(スティーヴン・キング)
「骨の教会」The Bone Church (初出〈プレイボーイ〉誌 二〇〇九年十一月号 A類)
スティーヴンソン『宝島』やH・R・ハガード『洞窟の女王』、そしてコンラッド『闇の奥』などを彷彿とさせる秘境冒険物語。コールリッジの海洋幻想叙事詩『老水夫行』のナラティヴとキプリングの現実と幻想の混在する植民地時代のインドを舞台にした短編の影響も濃厚です。
「モラリティー」Morality (初出〈エスクァイア〉誌 二〇〇九年七月号 B類)
シャーリイ・ジャクスン賞中編部門受賞作。財政難に陥り、そこから抜け出すためなら、あなたはどこまでの罪なら犯すことができますか? 金のために良心を売って“ささやかな”罪を犯した夫婦がしだいにふたりの関係に変調をきたしていくさまを描いた問題作。キングの中編のなかでもとりわけ不穏な空気に満ちた作品と称賛されています。
「アフターライフ」Afterlife (初出〈ティン・ハウス〉誌 二〇一三年六月号 A類)
人は死んだらどうなる? この物語ではリインカーネーションをとりあげています。ただし別の人間や動物に転生するのではなく、もう一度自分自身をやり直すというもの。でも残念なことに、前世の記憶は一切なし。そこがよくあるループものとはちょっとちがう。前世の軌道修正はできない。でも、わずかなら可能かも――デジャヴ感覚によって。そう言えば、ケイト・アトキンソンの長編『ライフ・アフター・ライフ』(二〇一三)はこのパターンの歴史小説でした。
「UR」Ur (初出 アマゾンのキンドル宣伝のための電子書籍 二〇〇九年 A類)
本書収録にあたってかなりの改訂が施されています。「著者の言葉」でキング自身が洩らしているように、本編は〈ダークタワー〉と関係しています。ことにシリーズ後半をお読みになっている人にはうれしい展開。あるいは、その壮大な〈ダークタワー〉を知らなくとも、『アトランティスのこころ』(一九九九)を既読ならニヤリとすること請け合い。もちろん本編単独でも多元世界もの、歴史改変ものとして十分楽しめます。
「ハーマン・ウォークはいまだ健在」Herman Wouk Is Still Alive (初出〈アトランティック〉誌 二〇一一年五月号 B類)
ホラー作品を対象としたブラム・ストーカー賞ベスト短編部門受賞作。と言っても、怪物や殺人鬼の出てくるホラーではない。高齢の男女の詩人と二組の子だくさんのシングルマザーのある一日が交互に語られます。自由勝手に青春を謳歌したヒッピー世代の高名なふたりの老詩人の優雅なピクニックと、子育てと貧困にあえぐ若いふたりの母親たちの対照が興味深い。富めるものと貧しきもの、格差社会を描きながらも、物語はキング的な壮絶悲惨な結末に向かって猪突猛進していきます。
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