- 2020.10.14
- 書評
恐怖小説から抱腹絶倒のホラ話まで――物語の珠玉の詰まった福袋
文:風間 賢二
『マイル81 わるい夢たちのバザールI』『夏の雷鳴 わるい夢たちのバザールII』(スティーヴン・キング)
「具合が悪い」Under the Weather (初出 わが国では『1922』と『ビッグ・ドライバー』の二分冊で刊行された中編集 Full Dark, No Stars の二〇一一年ペーパーバック版に特典として書き下ろされた作品 B類)
本短編集には犬が三回登場する。一回目は「プレミアム・ハーモニー」、二回目が本編。三回目は「夏の雷鳴」。それにしても、本編で語られるようなことを犬は飼い主にするのだろうか? どのようなことかは実際に読んでいただきたい。妻に対する深い愛は生理的嫌悪さえ苦にならないといった夫の、なかなかおぞましくも切ない話です。
「鉄壁ビリー」Blockade Billy (初出 二〇一〇年五月に単行本として刊行 B類)
周知のようにキングは大の野球好き(とくにボストン・レッドソックスの熱烈なファン)で、エッセイ「ヘッド・ダウン」や詩「ブルックリンの八月」(ともに短編集『ナイトメアズ&ドリームスケープス』所収)を執筆していますが、小説は本編が初です。古き良き時代の大リーグ野球は格闘技だったという興味深い話ですが、後半は犯罪ものの要素が加わり、キング節のエンジンが全開になっていきます。メインキャラクターの捕手である若造ビリーが例によって頭の弱い人物であるところもキングらしい設定です。
「ミスター・ヤミー」Mister Yummy (初出 本短編集 二〇一五年 B類)
本短編集では、老人がメインキャラクターを務める作品がけっこうある。本編もそのひとつ。キングは本短編集を刊行した時点では六十八歳。さすがにその年になると、身の丈に合った年齢をキャラクターに据えたほうがしっくりくるのかも。昔からのファンにとってはちょっと寂しいことに、子供をメインにして語られるのは、「マイル81」だけ。それはともかく、自分の死期が本編で語られるようにして前もって知らされるのであれば、なかなか素敵です。
「トミー」Tommy (初出〈プレイボーイ〉誌 二〇一〇年三月号 B類)
キングは少年時代を五〇年代に過ごし、青春時代を六〇年代に過ごしました。ベビーブーマーであり、ラヴ&ピースを唱え、反戦運動をし、カウンターカルチャーにどっぷりつかったみずがめ座の子供、フラワーチルドレン、すなわちヒッピーど真ん中世代です。本編はそのことがよくわかる物語詩。六〇年代に対するエレジーであり、人間の避けることのできない老いと死を詠った一種のキング版メメントモリでもある。ちなみに、「一九六〇年代を思い出せるというのなら、あんたはその時代をほんとうに生きたわけじゃない」という言葉を口にした最初の人物は、グレイス・スリックとポール・カントナー(ジェファーソン・エアプレイン)、ピート・タウンゼント(ザ・フー)、俳優のデニス・ホッパーやロビン・ウィリアムス、サイケデリック体験の伝道師・心理学者ティモシー・リアリーなど諸説あり、特定されていません。
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