
ディーヴァーは前作『スキン・コレクター』の刊行時、インタビューにこう答えている。
「読者の頭を殴りつけるような衝撃ではなく、さりげなく疑問の種を蒔いていく。読者がどこでイライラしはじめるか、という絶妙なかけひきを、書き手は知っておく必要があります」(2015/11/28・12/5合併号 週刊現代)
ディーヴァーはストーリーを構築する際、ライムがしているように部屋全面にホワイトボードを置いて詳細なプロットを書き出しているという。その記述を眺めれば、捜査の進行とともにキャラクターたちが何を考えてどう動いているか、また作者が読者にどんな心理的影響を与えようとしているかが如実に分かるに違いない。もし、そのホワイトボードの公開ツアーなるものが企画されたら、世界中から数多の作家や作家志望者たちが殺到するのではないか。そう思えるほどにディーヴァーのプロットは巧緻(こうち)で魅力的なのだ。
シリーズ物の醍醐味の一つはキャラクターの成長や変化を愉しめることで、リンカーン・ライムシリーズも例外ではない。ライムとアメリアの関係性およびチームがどう発展するのか、読者はまるで二十年来の知己のような気持ちで見守っている。ディーヴァーはその点でも抜かりがない。今回、未詳40号事件を経て二人の間にもチームにも変化が訪れる。シリーズ物のファンには変化を歓迎する向きもあれば忌避する向きもある。だが本作での変化は必ずや両者を満足させるに違いない。
この稿を書いている2020年7月現在、ディーヴァーの新作は賞金稼ぎコルター・ショウを主人公とする新シリーズの第一作・第二作とアナウンスがあり、ライムのそれではない。新シリーズも楽しみだが、熱心なファンは既に『カッティング・エッジ』を読了し十五作目を渇望していることだろう。
ご同好の士よ、しばし待とうではないか。