王道の戦国作品に充実作が続々と
今年の大河ドラマ「麒麟がくる」で、視聴者に鮮烈な印象を残した人物がふたりいる。本木雅弘が演じた斎藤道三と、吉田鋼太郎演じる松永久秀である。
そして、今年を代表する歴史小説二作もまた、このふたりの物語だった。
山田風太郎賞を受賞した今村翔吾『じんかん』は松永久秀の一代記。主家の乗っ取り、将軍弑逆(しいぎゃく)、東大寺焼き討ちという「三悪」を犯したとして知られる松永にまったく別の角度から光を当て、新たな松永久秀像を生み出した。
盟友や主君との誓いを胸に、たとえ世間から謗(そし)られようとも信じた道を行く久秀の描写は実に感動的だ。「三悪」の背後に「あったかもしれない」ドラマを見せる手腕は見事と言っていい。
一方、木下昌輝『まむし三代記』は、斎藤道三を中心に父と子による美濃平定を描いた物語。京から出てきた名もなき父子がなぜ美濃を平定できたのか、著者はそこに「国滅ぼし」という強大な武器の存在をほのめかす。この武器の正体は何かを巡って物語は進むが、その正体がわかるくだりの謎解きは実に秀逸。
松永久秀と斎藤道三に共通するのは、若い頃の史料が少ないこと。作家の想像力の見せ所であるとともに、史実に上手く絡める構成力も必要となる。その点でもこの二作は群を抜いていた。
もうひとつ戦国時代から、天野純希の『紅蓮浄土 石山合戦記』を挙げよう。石山合戦とは、およそ十年にわたって続いた浄土真宗(一向宗)本願寺勢力と織田信長の戦いである。信長に故郷の村を蹂躙された少女・千世は、仏敵・信長を倒せば極楽で死んだ弟妹に再会できると信じ、戦いに身を投じる。
煽動され美化される「死」。安全な場所にいる権力者。巻き込まれる人々。その中で「生きる意味」を描いた力作だ。
門井慶喜『銀閣の人』は、応仁の乱を起こし、乱世を招いた武人としてではなく、銀閣寺を建立した「文化の人」としての足利義政の物語である。
なぜ義政は銀閣寺にこだわったのか。そこに込められた思いは何だったのか。今に伝わる和風建築の基礎が銀閣寺にあったと知り、政治はその時代のものだが文化は時を超えて残るということの意味をまざまざと見せつけられた。
古代からも一作。馳星周『四神の旗』は藤原四兄弟の物語である。父・藤原不比等の遺志を継いだ四兄弟だが、決して一枚岩ではなかった。人の上に立つ、支配するとはどういうことなのかを、長屋王の変を軸に描き出した作品だ。
本書は不比等を描いた『比(なら)ぶ者なき』の続編。『少年と犬』で直木賞をとって波に乗る著者だが、氏の古代史小説にもぜひ手を伸ばしていただきたい。
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