- 2021.01.09
- インタビュー・対談
ステイホームのお供に! 2020年の傑作ミステリーはこれだ!【海外編】 <編集者座談会>
「オール讀物」編集部
文春きってのミステリー通編集者が2020年の傑作をおすすめします。
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
【文芸的な魅力をもつミステリー】
司会 話題をさらったディーリア・オーエンズ『ザリガニの鳴くところ』(早川書房)や、ラーラ・プレスコット『あの本は読まれているか』(東京創元社)は、「謎解き」の面白さというよりもむしろ、ともに文芸的な感動を味わうタイプの作品ですよね。
N 『ザリガニの鳴くところ』のさわりを紹介しますと、1969年、ノースカロライナ州の湿地帯で男の死体が発見され、村人たちはある少女に疑惑の目を向けるようになります。彼女は幼いころ家族に捨てられ、湿地帯の中で1人で暮らしている。ずっと村人から差別されてきた存在なんですね。物語は少女の視点で、彼女の人生を振り返る形で進んでいきます。とにかく描写の美しい小説で、その文芸的な魅力も含め、僕は本書は、日本でいうところの「ライト文芸」、アメリカにおける「YA(ヤングアダルト)」の文脈で書かれたものかなと思ったんですね。日本のライト文芸って、どんどん大人の読者も取り込む方向へと間口を広げてきているじゃないですか。アメリカのYA小説にも同じような状況が生まれていて、『ザリガニ~』もそこに位置づけられる作品かなと。というのも、本書の主人公の少女は、最初ほんとうに幼くて、家族が彼女を捨てて家を出ていくところでまだ6歳。若い読者も、彼女に寄り添い、ときに自分の人生を彼女に投影しつつ読んでいくことができます。ヘビーな描写もあるけれど、全体に語り口が濃密すぎないから読みやすく、彼女の成長をしっかり見守っていく感動があり、最後には事件の意外な真相も明かされます。
いっぽう『あの本は読まれているか』は、とても格好いい大人の女性たちが主人公です。タバコをプカプカ喫いながらCIAで働くタイピストのお姉さんたちの活躍を、冷戦という時代状況と絡めて描いた、文芸路線の大作といえます。この作品については上半期の座談会でかなり話しましたから繰り返しませんが、ソ連の作家パステルナークが書いた『ドクトル・ジバゴ』の原稿をめぐって、CIAエージェントの女性、タイピストの女性たち、パステルナークの愛人だったロシア人女性らが織りなす壮大な物語。強くおすすめしたい1作ですね。
司会 文芸的な面に加え、女性主人公が活躍する、ジェンダー的な切り口をもった作品が多いのも最近の海外ミステリーの特徴なのですよね。
N それらが1つの潮流であることは間違いないでしょうし、2020年のランキングにも反映していると思います。スティーヴン・キングが次男のオーウェンと書いた『眠れる美女たち』(文藝春秋)だって、明らかにフェミニズム小説なんですよ。女性だけが罹患してしまう疫病が町に蔓延して、男たちだけ残される。どうなるかというと、情けないことに男どもは皆、互いにいがみあうわけですね。はっきり現在のジェンダー状況を写し取ることを意図した作品だと思います。
-
『赤毛のアン論』松本侑子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。