――そうなんですね!
児玉:その後2006年に群像新人文学賞を受賞して小説家デビューされて、『憧れの女の子』や『君たちは今が世界(すべて)』などコンスタントに作品を発表していらっしゃいます。少年少女のデリケートな内面描写の巧みさには特に定評があって、近年は開成中学や早稲田実業中等部、海城中学など、いわゆる名門校、難関校とされるような中学校の入試問題に作品が頻出することでも知られています。
――現代文の試験ですか?
児玉:そうです。これはあくまでも個人的な考えですが、名門校であればあるほど、「ただの受験マシーンになるんじゃないよ。大切なことは考え続けることだ」っていうことを、朝比奈さんの作品を通して学校側が逆説的に伝えようとしてるのではないかなと。今回の『人間タワー』でスタジオジブリの宮崎吾朗監督がまさに「考えることをやめないヒロイン」というタイトルで解説を寄せてくださっているように。
――なるほど。知識の詰め込みの、いわゆる頭でっかちのエリートになるんじゃないよっていうメッセージが込められてるような感じではないかと。非常に面白そうです。それこそ小学生中学生の方が読んでも楽しめる作品なんですね?
児玉:もちろん、中学受験を控えている小学生やその親御さんにも楽しんでいただけると思いますが、受験は関係なくとも老若男女に読んでいただけたらうれしいです。というのも、メインの登場人物ではないのですが、作中に昔この小学校でいじめられていたことをひきずって毎日ちょっと納得がいかないまま過ごしている、高田さんというサラリーマンが出てきます。長い間くすぶっていた彼から「あの頃の自分に、教えてあげたい」と最後に発される内なる言葉というのが、グッとくるんです。ネタバレ注意なのですが、紹介させてください。
〈大丈夫だよ、君の未来は明るくなる。君は中学に入るといい先生に恵まれるんだ。(中略)君は、ずっと強くなっている。クラスの中心人物になることはない青春時代だったけれど、少なくとも人を馬鹿にすることはなかった。人を馬鹿にする人たちより、君はずっと素敵な青春を送った。〉
――朝比奈さんは様々な作品を通して、教室や学校、ときに会社という目の前の狭い世界がすべてではないというメッセージを発し、生きづらさを覚える人々に静かに寄り添う物語を紡ぎつづけていると感じているのですが、この科白もつよく心に残ります。もしも日々、「しんどいな」っていうふうに感じる方がいらしたら、ぜひこの文章にたどり着いていただけたらと願っています。
そういう何気ない一言が、読んだ人にとってすごく大切な一節になることってありますよね。ということで、本日ご紹介したのは朝比奈あすかさんの『人間タワー』という本でした。児玉さん、どうもありがとうございました。
児玉:ありがとうございました。
*この原稿はvoicyで放送されたものを書きおこしています
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