2016年6月、幻冬舎は、元TBS報道局のプロデューサー、山口敬之の著書『総理』を出版する。安倍総理を賛美するためのプロパガンダと批判されたが、見城はそれを否定するどころか、自らも表に出て、ものすごい安倍ヨイショを行った。
2016年7月、見城が出版した百田尚樹の『殉愛』が事実と違うとやしきたかじんの遺族から訴えられた件は裁判で遺族の訴えが認められた。幻冬舎側の上告も退けられ、法的に『殉愛』は負けた。だが、見城は訂正も謝罪もしなかった。そこで2017年9月16日、水道橋博士はこんなツイートをした。
「幻冬舎の見城 徹社長には百田尚樹をかばってマッチョで国士の姑息な黒幕を気取るのをやめて、無知で無垢で無力でありながら星雲の志を持つ若者の革命に寄り添う本作りをして欲しい。それでこそ幻冬舎だ」
だが、見城は黒幕どころか表舞台に出てきた。
2017年10月、見城は自分の冠番組『徹の部屋』(アベマTV)に安倍総理を招いた。アベマTVを経営するサイバーエージェントの藤田晋社長は見城と秋元と3人で株式会社giftを創立したほどの盟友。またアベマTVに出資したテレビ朝日で見城は放送番組審議会の委員長を務める。テレビの不偏不党を監視すべき第三者機関の役職に「癒着」をモットーとする見城を! ちなみに委員には秋元と藤田が名前を連ねている。
当時、安倍総理は森友・加計という2つの不正疑惑を追及され、それから逃れるように理由なき解散を行って批判されていた。その安倍を守るため見城はマシンガンのようなおべっかを繰り出した。「僕はずーっと安倍さんのファン」「すごくハンサムですよ。内面が滲み出ているお顔ですよ」「信義に厚い方、私利私欲がない」「外交でこれだけのことをした歴代の総理大臣はいないですよ」
安倍総理が外交で何を成し遂げたのか? 具体的な話は何もない。この番組でわかるのは、権力を求める者の権力に対する卑屈さだけ。見城は『つかへい腹黒日記』で描かれたままの軽薄さ、幇間ぶりを自らさらした。
普段、見城から偉そうに恫喝されている社員たちは、これを観て、どう思っただろう。いや、もう20年以上、日本人はこういう大人をさんざん見せられて、もう慣れてしまったか……。
でも慣れてはいけない。水道橋博士はツイッターでこうつぶやいた。
「是非、若者に見て欲しい。これが将来勝ち組になるオトナの会話だ。これくらい『飲み屋でやれ!』と思う映像も珍しい」
芸能界の異常さにも決して慣れず、常識の眼でそれを記録してきた彼は、マスコミが政治におもねることが当たり前になった今でもそれに慣れない。
以降、博士は見城を批判し続ける。特に見城がボーイズのプロパガンダのために作った『殉愛』を中心に。これを受けて見城は博士を「下水道」などと呼んで挑発した。ただし一般の人の眼には触れないサロン的SNS「755」で。
このバトルの決着は殴り合いでつけることになる。2018年8月4日、東京タワーメディアセンター内スタジオアースで水道橋博士は戦った。ただ、見城徹とではなく、彼の秘蔵っ子である幻冬舎の編集者、箕輪厚介と。
そうなった経緯は、hatashiai(果し合い)という決闘イベントをサポートする堀江貴文と、彼の本を担当した箕輪厚介と博士の間でいろいろあったらしいが、問題なのは、見城自身は体を張るわけでもないのに、博士を揶揄し続け、自分の上半身裸の写真をSNSに載せるなどでマッチョぶりを誇示し続けたことだ。
博士は無茶だった。箕輪厚介は博士より20歳以上若く、体重も20キロは多いだろう。8月4日に向けてジムで鍛え上げていた。博士も老体にムチ打ち、足繁くジムに通ってリングに上がった。しかし、当日、会場は箕輪が主宰するサロンの客、箕輪信者で埋め尽くされ、博士は完全にアウェイだった。『藝人春秋2』冒頭で博士をヨイショしていた目崎敬三までが会場の雰囲気に呑まれて「みのわ」コールしていた。
ひとりリングに向かう博士の胸には竹中労の言葉が去来していただろう。「弱いから群れるのではない。群れるから弱いのだ」
奇跡は起こらなかった。箕輪はゴングと同時に猛烈なラッシュをかけ、博士は1RでKO負け。前歯3本を折られた。
橋下徹に立ち向かって番組を降りた時と同じく、哀れな道化に見えたかもしれない。筆者には、誰よりも理性的な男が、えいやっと一線を飛び越える姿に見える。
『藝人春秋2』の単行本には未収録で今回の文庫で復活したサシャ・バロン・コーエンはまさにそういうコメディアンだ。名門ケンブリッジ大学の秀才でありながら、全裸になり、チンコをさらけ出して体で笑いを取る。だが、バカをやりながら、道化を演じながら、威張り屋がマヌケな言動をしでかす瞬間を待ち構えている。