かくいう私も映画の世界に身を置く前は「週刊プレイボーイ」という週刊誌の編集部に10年以上も身を置いていた経験がある。元同業者であることもあり、初めてお会いしたときから親近感を抱いてしまったのかもしれない。
私が週刊プレイボーイ編集部で記事を書いていた90年代という時代は、まだまだ出版の世界に、記者だかなんだか分からない、怪しげだが強烈な個性とパワーを持つ人間が多く生息していた。私が会ってきた記者や編集者たちも、本書に登場する方々と同じようにそれぞれに個性的な、いわゆる本橋的な方がたくさんいらした。そんな先輩方が書く記事は刺激的で、20代であった私にはずいぶん勉強になり、その後の脚本家・監督としての道に大いに役立ったものだ。
しつこいが本書でも取り上げられている方々は、もちろんとてつもない人生を歩んでいるわけだが、読者である我々にそう感じさせているのは、やはり本橋さんのライティング能力である。
本橋さんがとくに長い間、その人生を本に記してきた村西とおるという人物に関しては、もはやどこまでが村西とおるで、どこからが「本橋さんが書いた村西さん」かが、分からないほどその描写はリアルだ。小説のような人生なのか、人生が小説のようなのか、まるで分からない。
そしてもうひとつ、生意気にも感心してしまうことがある。本書に限らず、どの著書でも本橋さんは村西とおるという人間を通して「時代」を描いている。その時代とは、おもに昭和という時代である。村西とおるは、貧しい家庭に生まれながら、昭和の高度成長とともに「エロ」という金塊を掘り当て、バブル到来とともに巨大帝国を築き上げ、昭和の終焉とともに転げ落ちて行った。
自らもその過程に身を投じていた本橋さんは、人物描写だけに留まらず、背景を描くことでより人物を浮かび上がらせることに成功している。
ドラマ「全裸監督」の脚本執筆のさい、私が何よりも重要視したのは「時代性」であった。
村西とおるという過激なキャラクターの人生はもちろん面白いのだが、やはり本橋さんが描く時代性をドラマに活かしたいと思った。
なので最終話は、昭和という時代の終焉を書いた。
時代が(今じゃ考えられない)人間たちを創り出し、その人間たちが(今じゃ考えられない)刺激的で、そしてリスキーな、エロ・ビジネスを考えつき拡大させて行った。危険という意味は、よくも悪くも、という意味だ。時代が産んだ一大産業であるアダルトは、当然のように多くの悲劇も生んできたのだ。私は、ひたすら巨大化し続けてきたエロ産業を一方的に肯定するつもりはない。しかし本書で描かれる、ビニ本からAVに至る歴史のなかで、(今じゃ考えられない)ありえない者たちが登場し、ありえないアイデアで、ありえない大金が動いた現実があったということだ。
エロは経済をも動かした。
ビニ本、裏本などのいわゆる「エロ本」は出版界を急速に発展させた。
世界を席巻した日本の家電メーカーの柱であったビデオも、普及させたのはやはり「エロビデオ」である。
その世界で名を馳せた村西とおる、日比野正明、代々木忠をはじめとするアダルト界の重鎮たちの波乱万丈な人生は本書で読んでいただくとして、それ以外で本書でとくに気になった人物について書きたい。
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