第二章で描かれるテリー伊藤だ。この第二章だけ、エロから離れた異質な構成となっていて面白い。
じつはこれまた奇遇なことだが、私は1年ほどテリー伊藤さんの下で働いたことがある。
90年代初頭。
まだ20代前半の映画青年だった私は、当時熱中していた北野武監督の映画の現場で働きたくて、とある制作プロダクションに潜り込んだ。しかしそこは映画ではなく、バラエティ番組のプロダクションで私は「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」という番組にADとして配属された。
そこのプロデューサーがテリー伊藤さんだったわけで、私からするとテリーさんというより、伊藤輝夫プロデューサーと言うほうがピンとくる。本書で出てくる、本橋さんが一瞬お世話になったという制作会社は、私が在籍していた会社と同じなんじゃないだろうか?
とすれば奇遇だ。今後、本橋さんにお会いする機会があればぜひ伺いたいと思っている。
こうして映画がやりたかった私は、気がつくとテレビ番組に携わっていたわけだが、その制作現場は熱気に包まれ、本書でも描かれるような亜熱帯な90年代を経験できた。
本書では、そんなテリー伊藤と著者の北朝鮮紀行が描かれているが、紀行そのものがすごいというより、そんな企画をやろうと考えてしまう時代がすごい。私が携わった「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」も、若いスタッフたちの「面白いことは後先考えずとにかくやってみよう」という空気が充満していた。そういう時代だったのだ。
繰り返すが本橋さんはそんな時代の匂いのようなものを描くのがとても上手で、私は本を読みながら一スタッフとして駆け抜けた青春時代に思いを馳せてしまった。
青春時代といえば、そんな時代の中で、同じくテリー伊藤のもとでテレビ業界から中華料理店へそしてAVの世界に放り込まれ、何千万もかけた企画を作り、失敗と成功を味わうソフト・オン・デマンドの高橋がなりの描き方も一大青春記の匂いがある。
その後、私は記者となり、脚本家となり、演出家となり、ある日分厚い一冊の本を手渡された。それが本橋信宏著『全裸監督』だ。
その本との長い付き合いを経て、ドラマは2019年8月に配信がスタートした。
撮影までに、おそらく100稿以上の脚本を書いた。
とてつもなく長い時間をかけて、誕生させたキャラクターたちが画面の中で動き回るのを見て「ようやく終わったんだ」と胸をなでおろしたのを思い出す。
本橋さんが描く時代。
そして、その時代に生きた人々を見つめる彼独特の視点がなければ、ドラマ「全裸監督」もなかったに違いない。
ドラマに出てくる登場人物たちは、本橋さんの数々の本を参考にして作りあげた。
とくに本書には「全裸監督」の土壌ともなった時代や人物が多く描かれている。
“本橋通”としては、今後も時代に生きる刺激的な人間たちを描き続けて欲しいし、私もまた時代の中で、どのような映画を作れるのか模索して行きたい。
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