スティーヴン・キングが七〇年代後半から八〇年代前半にかけてリチャード・バックマン名義で作品を発表していたのは周知の事実。今度はC・J・チューダー名義で新作を発表! かと勘違いしかねない傑作サスペンスが、本書『白墨人形』The Chalk Man (2018)である。
「C・J・チューダー、こいつはおれじゃないのか? かつてアルコールとドラッグにどっぷり浸かっていたせいで、『クージョ』を自分で書いたことさえ覚えていなかったことがあったが、今回は老齢による記憶障害で『白墨人形』を別名義で創作したことをすっかり忘却していたのか」と思ったかどうかは定かではないが、本書を一読、キングは思わず Twitter でこう発信した。
「出来のいい作品を読みたい? 書店のベストセラーチャートを見てもだめだ。新作だから。でも、そのうちきっとランクインする。C・J・チューダーの『白墨人形』だ。私の書くものが好きなら、この本を気に入るはずだ」
この Twitter を偶然目にして誰よりも喜んだのは、言うまでもなく、C・J・チューダー本人である。なにしろ、キングはチューダーの憧れの人であり敬愛する作家だったし、その強力推薦文は社交辞令でも出版社からの依頼(営業)でもない、きわめて個人的な本音の“つぶやき”だったから。
『ミザリー』のアニー・ウィルクスさながら「私はキングのNo.1ファン」を公言してはばからないチューダーは、オンライン・サイト「DEAD GOOD-The home of killer crime books, drama and film.」(2018年8月21日)に自らのキング体験を寄稿している。まず、その内容を要約紹介しよう。
「八〇年代初頭、自分(チューダー)が十一歳か十二歳のころ、キングはジャンル作家とみなされていた。マニアックなホラー作家として。しかもベストセラー作家だ。大衆受けがよいものが良質なわけがない、と批評家たちはせせら笑っていた。ところが時代は変わり、ありがたいことに、いまや文学的スノビズムは衰退し、素晴らしい創作技術はジャンルで判断されるものではないと一般的に理解されている。
それにキングは昔からずっとホラー作家に限定される作家ではなかった。ファンタジーやSF、終末テーマを掘り下げてきた。『ミザリー』や『ジェラルドのゲーム』はサイコ・サスペンスだし。さらに、“スタンド・バイ・ミー”のような成長物語もある。
自分が最初に手に取ったキング作品は『クリスティーン』だった。たちまち虜になり、『キャリー』、『呪われた町』、『デッドゾーン』と立て続けに読んだ。『ペット・セマタリー』を読んだのは十三歳のときで、布団に潜り込んで終夜灯をつけて明け方の三時まで読みふけったことを今でも覚えている。夏休みには、『IT』を読んだ友人同士で互いの庭に集まっては、こわい場面を語り合った。『ミザリー』では、初めてのシェアーハウスの中古のソファーで恐怖に縮み上がった。『シャイニング』はこれまで移り住んできたすべての場所で読んでいる。自分はその作品に何度も立ち返り、そのたびに常に読書の逸楽とインスピレーションを得ている。
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