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「国性爺(こくせんや)合戦」主人公のモデルとなった人物の半生――『海神の子』(川越宗一)

「国性爺(こくせんや)合戦」主人公のモデルとなった人物の半生――『海神の子』(川越宗一)

「オール讀物」編集部

Book Talk/最新作を語る

出典 : #オール讀物
ジャンル : #歴史・時代小説

『海神の子』(川越 宗一)
日中が生んだ、流浪する英雄

 直木賞受賞作『熱源』以来二年ぶりの新刊は、舞台「国性爺(こくせんや)合戦」の主人公のモデルとされる、日本人と中国人の混血児・鄭成功の半生を描いた渾身の一冊だ。

「最初は鄭成功ではなく、母親の田川マツ(作中では松)に興味を持ちました。中国人海賊と国際結婚し、後の英雄の母である彼女の数奇な人生に惹かれたんです」

 海賊・鄭芝龍と松の間に生まれた福松(後の鄭成功)は幼少期、長崎県平戸で両親不在で育つ。福松は七歳になったとき、海賊の頭となり、海の守り神・媽祖(マーツオ)と呼ばれるまでの人物になった松に引き取られて、明に渡ることに。強大な勢力を誇る鄭家は明の皇帝から将軍職を与えられるまでになり、福松は明のために働こうと決心する。

「とはいえ、福松は国に尽くそうとしたわけではなく、自分の居場所やアイデンティティ確保のため、一生懸命になる。この人物像は僕の創作です。現代的な価値観と思われるかもしれませんが、史実に残っている行動だけを追うと、多くの歴史上の人物は共感できない対象になってしまう。小説と歴史研究は違いますから、事実は押さえながらもエンターテインメントとして楽しんでもらいたいなと。中国人でも日本人でもない、あわいの人だからこそ持ちえる心情を描写しました」

 明で力を得ようとした福松だが、清の勃興により明が瓦解し、清と戦う道を選ぶ。北から攻め寄せる清に対し、どんどん南方に追いやられるものの、そこには海賊一家にとって庭ともいうべき海が広がっていた。作品内で描かれる海戦シーンの数々の迫力に多くの読者は圧倒されるだろう。

「僕自身、そんなに馴染みがないのに小さい頃から船の絵ばっかり描いてました(笑)。なぜか海のシーンは書きたくなるんですよね。鄭成功にとって、海は自由な場所である一方、陸地がないと生活ができないという現実のはざまで葛藤します。鄭成功は失敗もたくさんしていて、決してスーパーヒーローではないけれど、動き続けることで成し遂げた功績もある。僕の小説はいつも“ここではないどこか”を目指す人物が登場するような気がします」

 舞台は中国が中心だが、日本にいる鄭成功の弟・田川次郎左衛門との繋がりも描かれており、徳川幕府が鄭成功をどう見ていたかもうかがい知れる。

「鎖国時代ということもあり、当時の日本が海外とどんな風に交流していたかは意外と知られていないテーマだと思うんです。そのあたりも楽しんでもらえれば嬉しいですね」


かわごえそういち 一九七八年生まれ。二〇一八年『天地に燦たり』で松本清張賞を受賞し、デビュー。二〇年『熱源』で直木賞を受賞。本作が三冊目の単行本となる。


(「オール讀物」7月号より)

単行本
海神の子
川越宗一

定価:1,760円(税込)発売日:2021年06月23日

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