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もう、傍観者ではいられない……。恐怖が脳に絡みつく、新感覚カルトホラー

もう、傍観者ではいられない……。恐怖が脳に絡みつく、新感覚カルトホラー

聞き手:「別冊文藝春秋」編集部

『異端の祝祭』(芦花公園/KADOKAWA)

出典 : #別冊文藝春秋
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

『異端の祝祭』(芦花公園/KADOKAWA)

 二〇二〇年夏、「怖すぎる」の悲鳴とともにあるネット小説がTwitterで拡散された。芦花公園のハンドルネームで小説サイト「カクヨム」に投稿された『ほねがらみ』だ。同作は単行本にまとめられ、二一年四月に刊行されると、再びSNSで大きな話題となった。

 その興奮冷めやらぬ中、同年五月に角川ホラー文庫から刊行されたのが、カルトホラー長篇『異端の祝祭』である。

 主人公の島本笑美は幼いころから、生きている人間と、人ならざる者の区別がつかないという体質に悩まされていた。人ならざる者たちは常に笑美に纏わりつき、彼女の日常生活を邪魔してくるのだが、他の人には彼らの姿は見えていない。誰とも共有できない悩みを抱え、人間関係もうまくいかず、孤独を感じていた。

 就職先も決まらず、すっかり自信を失っていた笑美に、あるとき転機が訪れる。大手食品会社の面接で、ひとりの魅力的な青年社長に出会ったのだ。彼は、笑美をひと目見るなり「やっと見つけました。貴女は素晴らしい」と告げ、内定を出す。そんな彼に笑美もまた、戸惑いながらも惹かれていく。

 しかし笑美を待っていたのは、「研修」という名のもと、奇妙な儀式に参加させられる毎日だった。笑美は、奇声をあげながら這い回る男女など、異常な光景を次々目にすることになる。彼女が入った会社は、巨大なカルト教団だったのだ。そのことが判明してもなお、笑美は自分が必要とされているという初めての実感に幸福を覚え、居場所を見付けたと感じるようになる。

「ままならないことが続くと、極端なものに頼ったり、絶対的な正解を求めてしまうのが人間の性です。そんな、誰もが覚えのあるであろう心の揺らぎを見つめたいと思いました。かつて私は、元カルト信者の方の話を聞く機会に恵まれまして、その時その方が、教団だけが自分を肯定してくれたと仰っていたのがとても印象に残りました。本作では、個人のささやかな承認欲求が、組織によって利用され、歪められていくこともあるという現実にも踏み込んだつもりです」

 笑美のただならぬ様子にただひとり危機感を抱いたのが、彼女の兄・陽太だった。彼は謎めいた相談所・佐々木事務所に助けを求める。ここは、怪奇現象を民俗学的アプローチで解決する所長・佐々木るみと、そんな彼女を心から尊敬する助手の青山幸喜コンビが運営する、心霊案件専門の相談所だった。容姿に恵まれず、変わり者として周囲から疎まれがちなるみだが、笑美の救出劇では鮮やかな手腕を見せる。博覧強記のるみによる、切れ味鋭い謎解きの面白さを味わえるのも、本作の魅力だ。

「SNS上では、るみは“映えない”ヒロインとして愛されているようです(笑)。私は彼女を、あり得たかもしれない笑美のもう一つの姿として描きました。どちらも自己肯定感が低く、社会に馴染めていないのですが、二人の違いは本当の意味で自分を認めてくれる存在に出会えたかどうか。笑美が入ったカルトが、彼女をひたすら褒め続けるのに対して、るみの助手・青山は、るみの話にじっと耳を傾け続ける。彼が、るみの一挙一動を否定も肯定もしないことこそが、真に彼女を尊重していることの証ではないかと思うんです。るみが笑美に告げる『あなたが、自分で考えなさい』の言葉には、人間に必要なのは安易な共感よりも、真に信頼を寄せてくれる相手であり、それこそが自立を助けてくれるのだという思いを込めました」

 笑美の救済の兆しが見え、物語は終焉を迎えるかと思いきや、ここから怨霊たちによる獰猛な攻撃が始まり、読者はさらなる恐怖の谷に突き落とされる。まるでハリウッド映画を観ているかのような臨場感だが、実際、芦花さんは執筆にあたり、人気ホラー映画「死霊館」シリーズのように、身体感覚に訴えかけるような怖さを目指したという。

 作中にちりばめられた沢山のモチーフからは、芦花さんの、数多くの先行ホラー作品へのリスペクトもうかがえる。

「小学校低学年のときにアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』に夢中になったのが、私の原体験です。その後、『鬼太郎』の原作者の水木しげるさんの漫画や、そこからたどり着いた楳図かずおさんの作品を繰り返し読みました。小学校高学年になって貴志祐介さんの小説に衝撃を受けてからは角川ホラー文庫を集め始め、国内外のホラー小説を読み漁るように。朱雀門出さんやジェラルド・カーシュの作品からはずいぶん影響を受けています。

 私はホラーには、フィクションの醍醐味がすべて詰まっていると思うんです。虚構とリアルの間を行き来する喜びは、たまらないものがありますね。また、あらゆる現象をまずは受け入れるところから始まるのも、ホラーの面白いところだと思います。実社会では目を背けてしまうようなことであっても、迫りくる恐怖の前では傍観者ではいられない。だからこそ、現実に起きている問題を照らし出しやすいのが、ホラーというジャンルの強みですよね。

『異端の祝祭』にはそういうホラーならではの仕掛けを存分に詰め込んでみました。いつか敬愛する三津田信三さんのように、もっと技巧的な作品にも挑戦できるようになりたいですね」


ろかこうえん 東京都生まれ。二〇一八年、小説投稿サイト「カクヨム」にて小説の執筆を始める。二一年、同サイトに投稿された「ほねがらみ―某所怪談レポート―」を改稿した長篇『ほねがらみ』でデビュー。

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