本の話

読者と作家を結ぶリボンのようなウェブメディア

キーワードで探す 閉じる
SNSトラブル、ゲーム依存、性被害、不適切動画――スマホの罠から子どもを救う実践的教育法とは?

SNSトラブル、ゲーム依存、性被害、不適切動画――スマホの罠から子どもを救う実践的教育法とは?

石川 結貴

『スマホ危機 親子の克服術』(石川 結貴)

出典 : #文春新書
ジャンル : #ノンフィクション

『スマホ危機 親子の克服術』(石川 結貴)

なぜ知らない人と仲良くなるのか

 実のところ私自身、わからないことはたくさんある。元来アナログ人間で、スマホを使いこなすなど程遠いため、まずは取材で関わる中高生の話がわからない。「フォトナのボイチャで」とか、「フレンドになった人から、こちゃに誘われた」などと言われるたび、「フォトナって何?」、「こちゃ? お茶じゃなくて?」と聞き返し、笑われたり、あきれられたりしている。

 彼らの実態については後述するが、その内情を知るにつけ、単なる世代間ギャップ以上の溝を感じることもある。SNSで出会ったどこの誰ともわからない相手を「心友(しんゆう)」と呼び、心が通じ合う唯一の存在だという女の子。オンラインゲームに没頭する男子中学生は「廃課金(多額のお金をつぎ込むこと)」をして、ランキングの上位獲得に意欲を燃やしていた。

 そこには彼らなりの理由や事情があるのだが、といってすべてを受け入れられるものでもない。なぜ、どうしてと頭を抱えることも多いから、それこそ「なぜ知らない人と仲良くなるのか」といった親の戸惑いはよくわかるのだ。

 私生活では二人の息子を育てたため、親子で話し合うとか、子どもの状況を理解することのむずかしさも知っている。現実の親子関係はマニュアルどおりにいくはずもなく、良かれと思ってしたことが逆の結果を招いたりする。私もひとりの親として、「どうしていいのかわからない」と悩みつづけてきた。

 だからこそ本書は取材から得た子どもや親の状況を報告し、リアルな実態に迫っていく。スマホに苦手意識を持つ親を念頭に平易な表現を用いながら、併せて事例紹介や問題の背景などを説明し、現実的に役立つ内容で構成する。

 たとえば「オンラインゲーム依存」と言われてもピンとこなかったり、実感として伝わりにくかったりする。「一日三時間くらいなら平気だろう」、「毎日ゲーム友達と盛り上がって楽しそう」などと、たいして気にしていない親は案外多い。

 そこで私は、「親自身の身近なこと」に置き換えるよう勧めている。「子どもが一日三時間のゲームで、毎日友達と盛り上がる」という場合、「親は一日三時間の飲酒で、毎晩飲み友達と大騒ぎ」と考えるのだ。

 毎日三時間の飲酒をつづければ健康を害するだけでなく、社会生活や家族関係が破綻する恐れもある。ゲームと飲酒は別物と思うかもしれないが、オンラインゲームを通じて得られる刺激や興奮、常習性などはアルコールやギャンブルと共通する。最近ではオンラインゲームを「デジタル・ヘロイン」、つまり麻薬と評する医療者もいるほどだ。

 こんなふうに子どもを取り巻く問題を特殊で難解なものとせず、親自身が実感として理解できるよう解説したい。

スマホを巡る社会の変化

 また、本書では子どものスマホ利用の問題を親子間だけのものとせず、広く社会問題として扱っていく。

 たとえば二〇二〇年、文部科学省は「公立中学校へのスマホ持ち込み」を条件付きで容認した。PTA代表や学校関係者の反対意見を押し切っての決定だが、こうした教育行政の在り方についても考えたい。

 コロナ禍による長期の自粛生活では、オンライン学習やリモートコミュニケーションが拡大したが、一方で子どものゲーム利用や動画視聴もいっそう増加した。これまで以上の依存傾向を示すデータもあり、将来的な不安要素は少なくない。

「GAFA」(注2)による世界規模のデータ占有、人工知能(AI)がもたらす社会構造の変化なども考える必要があるだろう。今世紀半ばにはAIが人間の知性や能力を上回り、既存の社会・経済システムが大転換するという予想もある。

 人間の代替労働力というだけでなく、医療、金融、情報通信、宇宙開発、さらには軍事にも利用されることを考えれば、子どもたちの将来は親世代とはまったく違うものになりかねない。これからおとなになる彼らは否応なくその社会を生きていかなければならないし、また生き抜くための思考や行動が必要だろう。

スマホ教育はどうあればいいのか

「スマホに詳しくないから」、そう親があきらめているうちに、子どもはますます離れていく。「ウチの子に限って」、「なんとなく大丈夫そう」と先送りするほど、複雑化する問題に対応できなくなる。「学校でスマホ教育をしてほしい」などと人任せにしたところで、他人が我が子の人生の責任を取ってくれるわけではない。

 繰り返しになるが、ツイッターやインスタグラムをやったことがなくてもSNS教育はできるし、オンラインゲームなど知らなくてもゲーム依存を防げる。「スマホ弱者」の親が子どもと向き合うためにすべきことは何か、激変する社会を生きるためのスマホ教育はどうあればいいのか、本書を通じて知ってほしいと思う。


(注2)GAFA=アメリカの主要IT企業であるグーグル(Google)、アマゾン(Amazon)、フェイスブック(Facebook)、アップル(Apple)の四社の総称をGAFA(ガーファ)という。GAFAは、インターネット上で情報やサービス、商品がやりとりされる環境を提供し、検索や買い物、ソーシャルネットワーク、アプリ開発などを通じて利用者から膨大なデータを収集している。

※本書で紹介する各種アプリやウェブサイト等の情報は取材時点のものであり、現在では仕様・設定・サービス内容・利用方法が異なっている場合があります。


(「はじめに」より)

文春新書
スマホ危機 親子の克服術
石川結貴

定価:902円(税込)発売日:2021年09月17日

プレゼント
  • 『グローバルサウスの逆襲』池上彰・佐藤優 著

    ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。

    応募期間 2024/4/19~2024/4/26
    賞品 新書『グローバルサウスの逆襲』池上彰・佐藤優 著 5名様

    ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。

ページの先頭へ戻る