- 2021.10.11
- インタビュー・対談
「二人で雪まつりに行ったりしていたら『エロスの種子』が大ヒットして…」 桜木紫乃ともんでんあきこはなぜ“女で身を滅ぼすキャラクター”が好きなのか
桜木紫乃さん×もんでんあきこさん#1
ジャンル :
#小説
,#エンタメ・ミステリ
登場人物・影山が一番かっこいいところから入るために
桜木 ストレスがないことって、とても大切ですよね。私はそれが出来ている気が、まだしないんです。
コミカライズの『ブルース』では、小説の第3話「鍵」から始まりました。ここにはどんな理由が?
もんでん 漫画ではビジュアルが大事なので、影山博人が一番かっこいいところから入らないといけないんです。指が6本ある博人が、かっこよくスーツを着こなして、女を転がしていく。
柿沼美樹という主婦が10年前、夫が外の女のところに入り浸るようになったときに、指が6本ある若い男性を買った。そして、自分の奥に快感があることを教えられる。
桜木 この第1話「鍵」は、この記事の読者にも読んでもらえるんですよね? 『グランドジャンプめちゃ』に連載中も、毎回楽しみでした。でも、私が原作を書いたわけだから、作品内の景色も自分の記憶の中にあるはずなのに、漫画を読む前には決して戻れないんですよね。漫画という手法で、もんでんさんは、私が出さなかった答えを出してくるんです。怖い読者ですよ。
小説『ブルース』を粉々になるまで砕いて、さらに新しく陶器を作るぐらいの熱量を感じました。
絵で、エロスを表現する人の頭の中は、文章を書く私とはまた違う世界。私が見たこともない筋肉を使って描いているというのが伝わってきます。性描写は小説の場合、人間の見せどころというか、書き手の品や生き方を問われるシーンなんですね。映画の世界では殺陣と同じなのだと聞きました。漫画は、その両方だよな、ともんでんさんの作品を読むたびに思うんです。やっぱり「答え」を出すひとなんだな、って。
もんでん その答えが合っていたら良かったんですが……。
もんでんさんストーリーには、人生の復習を感じる
桜木 実は自宅の階段のところに、私の好きな本を置く場所があるんですが、寝る前に、もんでんさんの本を読むんです。大人の漫画っていうのは、眠る前に心を落ち着かせてくれる。私たちの時代の少女漫画って、心をざわつかせるものだけれど、大人になると、一通りいろんなことを経験して、寝る前は、できれば落ち着きたい。
もんでんさんの作るストーリーには、人生の復習を感じるんです。エロスは満載なんだけれども、エロスにいたるまでの気持ち、いたってからの心情を読むと、「これで私は明日、何があっても大丈夫」と思えて、すっと眠れるんです。虚構って、大人になるほど大切なんだよなぁって、そんなことを思っています。
もんでん 嬉しいです。
桜木 だから、眠れない夜は、もんでんさんの『ブルース』か『エロスの種子』を(笑)。
(第2回に続く 「子供は親を選べる。生きていく術を教えてくれた人も親だから」 桜木紫乃が描く、“毒親”から解放される“インモラル”な方法)
桜木紫乃(さくらぎ しの)
作家。1965年北海道生まれ。2002年「雪虫」で第82回オール讀物新人賞を受賞。07年、同作を収録した『氷平線』で単行本デビュー。13年『ラブレス』で第19回島清恋愛文学賞、同年『ホテルローヤル』で第149回直木賞、20年『家族じまい』で第15回中央公論文芸賞を受賞。『風葬』『起終点駅(ターミナル)』『裸の華』『砂上』『ふたりぐらし』『光まで5分』『緋の河』『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』『Seven Stories 星が流れた夜の車窓から』(共著)、絵本『いつか あなたを わすれても』(オザワミカ・絵)など、著書多数。
もんでんあきこ
北海道出身。1983年のデビュー以来、少女誌から青年誌まで幅広く活躍している。代表作は、累計140万部突破のベストセラーとなった『エロスの種子』(2021年9月現在1~5巻発売中)。圧倒的画力と巧みなストーリーで描かれる、優しくて強くてときに脆い男女のオムニバスは、雑誌「グランドジャンプめちゃ」にて大好評連載中。他著に『竜の結晶』(集英社)、『アイスエイジ』(集英社)など。
-
『赤毛のアン論』松本侑子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。