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内田樹が語る「コロナ禍という大義名分で“暴力性をリリース”する人々」

内田樹が語る「コロナ禍という大義名分で“暴力性をリリース”する人々」

内田 樹

「コロナ後の世界」を考える#1 

出典 : #文春オンライン
ジャンル : #随筆・エッセイ

 

――国民には緊急事態宣言を出して強い制約を課す一方でオリンピックは強行し、感染者が急増してもなんの説明責任も果たさず、医療的支援が満足に受けられない人々が大量に出ました。まるで国からDVを受けているような状況でした。

内田 政治家自身もまたふだん以上に攻撃的な言葉にさらされていると思います。どの政治家もそれぞれに関心の高い分野があります。外交なり安全保障なり財政なり教育なり、専門とする分野があり、そこで自分の能力を発揮するはずだった。ところがコロナ禍においては「感染症対策をどうする?」というシングル・イシューに政治的課題が絞られてしまった。すべての政治家、官僚たちが感染症対策の出来不出来という一点でその能力差を査定され、格付けされるということが起きたわけです。こんなことは、ふつうは起こりません。財政や安全保障や教育なら、どんな政策をとってもその成否がわかるまでにはかなりのタイムラグがあるし、解釈の違いだとか、誤差の範囲だとかいって、失政を糊塗することだってやろうと思えばできる。でも、コロナではその手が使えなかった。感染者数と死者数はリアルな数字ですから。政治家たちもこの1年半、メディアと国民からの査定的なまなざしにさらされ続けた。

警戒すべきは単一の仮想敵を攻撃する陰謀論

 こうした状況下で一番警戒すべきは、敵を見つけて一点集中する言説――「この人、この連中さえいなければすべての問題が解決する」といったタイプの陰謀論です。

 

――パチンコ店、ライブハウス、飲食店、路上飲みの若者たち、医師会……この1年半を振り返ってもやり玉に挙がるターゲットが次々と入れ替わっていきましたね。

内田 まさにそうで、「あいつが敵だ、諸悪の根源だ」と誰か言い出すと、何万人もの人が一斉に同調する。歴史を見れば分かる通り、こういう危機的な状況下では人々はすぐに陰謀論に飛びついて、単一の「敵」を探そうとするんです。

 本書の中で、フランス革命後、権力や財産を失った貴族や僧侶たちがフランス革命の「張本人」を探し出そうとして、「ユダヤ人の秘密結社」という陰謀論を作り出していったプロセスを論じましたが、同じことはそれから後も繰り返し、どこでも起きています。

単行本
コロナ後の世界
内田樹

定価:1,650円(税込)発売日:2021年10月20日

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