今の感染症による混乱は、革命や戦争の混乱に比べたらスケールは小さいですが、それでも「話を簡単にして、張本人を探し出して、そこに憎悪を集中させる」というタイプの議論は簡単に生まれてきます。十分な警戒心を持つ必要があります。
――こうした切迫した状況で一番大切なことはなんでしょうか。
内田 コロナについて話している人たちの言葉を聴いていると、多くの人がしだいに興奮して、怒声に変わってくるんですね。でも、ことは国民の生命と健康にかかわる医学上の問題です。できるだけクールダウンして、非情緒的な言葉で語るようにしないと、「これだけは確かだ」という客観的事実を共有して、その上で対策を講じるというふつうの手順さえ踏めなくなる。
コロナウイルスはこの後も変異株が連続的に生まれると予測されています。ということは、この先も長期的にこうしたストレスフルな状況が続くということです。だとしたら、感染症が蔓延している状態を「平時」ととらえて、冷静に淡々と対処するしかありません。興奮しっぱなしでは、適切な疫学的対処ができませんから。
感染症そのものはこちらがクールダウンしただけで収まるというものではありませんが、それでも、感染症から派生するさまざまな社会問題、とりわけ国民同士の対立確執は抑制できる。
内田樹(うちだ・たつる)
1950年東京生まれ。思想家、武道家、神戸女学院大学名誉教授、凱風館館長。東京大学文学部仏文科卒業。東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程中退。専門はフランス現代思想、武道論、教育論など。『私家版・ユダヤ文化論』で小林秀雄賞、『日本辺境論』で新書大賞を受賞。他の著書に、『ためらいの倫理学』『レヴィナスと愛の現象学』『サル化する世界』『日本習合論』『コモンの再生』、編著に『人口減少社会の未来学』などがある。
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