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なぜ日本は「生きている気」がしない国になったのか? 内田樹が考える“コロナ後の世界”

なぜ日本は「生きている気」がしない国になったのか? 内田樹が考える“コロナ後の世界”

内田 樹

「コロナ後の世界」を考える#2

出典 : #文春オンライン
ジャンル : #随筆・コミックエッセイ

 

 今の日本政府が「世界と人類のあるべき姿」を示して、国際社会に指南力を発揮すると期待している人は国際社会にはいません。でも、「他者からの敬意」なしでは人間は生きてゆけない。国だって同じです。「他者からの真率な敬意」という糧を失うと、「生きている気」がしだいに失せてくる。今の日本があらゆる指標で国力が衰微しているのは、そのせいなんです。金がないからでも、軍事力が足りないからでもない。他国の人たちから敬意を抱かれていないからです。

――本当に耳が痛いご指摘です。

最優先は、国民全体が豊かで幸福に暮らせるようにすること

内田 だから、国力を回復するというのも、それほど難しい話じゃないんです。別に大金を儲けたり、軍事力を増強したりする必要なんかない。国際社会から見て「日本はいい国だな。みんな幸せそうに暮らしているな」と思われる国になれば、それでいい。それが敬意を醸成する。だから、とにかく国民全員が豊かで幸福に暮らせるように、制度を整備して、厚みのある、手ざわりの温かい公共を再構築する。

 最優先に整備すべきは、行政と医療と教育です。その領域には十分な公的支援を行う。そうすれば、市民たちは安心して暮らし、教育を受け、良質な医療を受けられる。でも、実際には、「民営化」や「稼げる大学」や「稼げる医療」などというビジネスのロジックを持ち込んで、公共セクターがどんどん痩せ細っている。

 
コロナ後の世界』(文藝春秋)

――行政のアウトソーシング化ですね。

内田 公務員を減らして、その分の仕事を派遣会社に丸投げしていますが、たしかにそうやって非正規職員を増やせば人件費コストは削減できるでしょう。でも、人材派遣会社から送られる非正規職員に、公務員としての責任感や忠誠心を求めることは無理です。労働者が給料分以上の働きをするときの最大のインセンティヴは組織に対する帰属意識と、与えられた使命を全うしようとする責任感です。行政をどんどん民営化して、ドライな雇用関係に置き換えてゆけば、たしかに安い労働者を使い倒すことはできるでしょうけれど、彼らにオーバーアチーブを期待することはできない。しかし、全員が「給料分しか働かない行政組織」が厚みのある、手ざわりのやさしい公共セクターを管理運営できるはずがない。

単行本
コロナ後の世界
内田樹

定価:1,650円(税込)発売日:2021年10月20日

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