強い絆で結ばれた「チーム」の活躍
互いを信頼し合い、強い絆で結ばれているチームといえば、今野敏の「安積警部補」シリーズの右に出るものはないだろう。第一作の『二重標的』(初刊時は『東京ベイエリア分署』)が発表されたのは1988年。以来、30年以上に渡って書き継がれている作者のライフワークともいえる息の長いシリーズだ。初期の頃はそれこそ施設がほとんどないお台場が舞台だった。一度メンバーごと神宮に近い「神南署」に異動し、再びお台場に戻ってきたのである。つまり現シリーズは第三期ともいえるのだ。近作で描かれる風景は、大きな施設が林立する現在のお台場そのものなので、古くからの読者には隔世の感があるだろう。
最新作『暮鐘』(21年)は主人公の安積だけでなく、彼の部下や、ライバルである強行犯第二係の相楽係長など、おなじみのキャラクターを中心にすえた短編集である。「隠蔽捜査」シリーズの竜崎もいいが、常に他人の目に敏感な安積の人間らしさはやはり魅力的である。
安積班は仕事に対して真摯な真面目人間揃いだが、まったく正反対で隙あらばさぼろうとする、ぞろっぺえなコンビが登場するのが逢坂剛の「御茶ノ水署」シリーズだ。その二人とは同署生活安全課保安二係の斉木斉巡査部長と梢田威巡査長である。二人は小学生時代の同級生同士。偶然にもここで上司と部下として再会したのだ。斉木はやんちゃな梢田にいじめられたことを忘れておらず、ことあるごとに上司という立場を振り回して梢田を翻弄する。『配達される女』(00年)はシリーズ二作目。巻頭の「悩み多き人生」で斉木は、古書店の手伝いをする牡ライオンのたてがみのようなヘアスタイルの厚化粧の女性に惚れてしまう。さらに本庁から保安係に新たなメンバーが加わることに。斉木の恋と新メンバー登場の顛末はいかなることに。
実在の店も多く登場するなど、御茶ノ水や神保町界隈の定点観測も兼ねている楽しいシリーズである。
『笑う警官』(04年、初刊は『うたう警官』)は、佐々木譲初の警察小説だが、タイムリミットの要素を取り入れたサスペンスであり、私的な捜査本部を設けるという趣向が珍しい捜査小説でもある。
警察の秘密アジトで女性警察官が殺され、彼女とつき合っていた津久井巡査部長が犯人と断定される。その裏側には警察の不祥事を議会で証言する予定の津久井を、口封じのため抹殺しようとする陰謀が介在していた。かつて津久井と危険な潜入捜査に携わった大通署の佐伯警部補は、総務係の小島百合など有志を募り津久井の無実を証明しようと、秘かに捜査を開始する。
今や既刊9作を数えるまでになった、スピーディな展開が売りの人気シリーズの記念すべき一作目である。この時のメンバーはほぼ近作にも登場し、佐伯と小島が恋仲になるなど、シリーズならではの人間関係の変化も楽しめる。
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