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手土産のかわりに

手土産のかわりに

坂木 司

『おやつが好き』(坂木 司)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #随筆・エッセイ

『おやつが好き』(坂木 司)

 食べ比べといえば、銀座三越でのイベントが思い出されます。本文でちょこっと宣伝していましたが、これは拙作『和菓子のアン』シリーズに出てくるお菓子を和菓子職人さんたちが再現してくださるという(私にとっては)夢のようなイベントでした。『本和菓衆』という老舗和菓子店の若手店主たちで構成されるグループが、作中に出てくるお菓子を作ってくださったのですが、同じ菓名でもまったく違った印象のものがあったりして面白かった。お菓子を「解釈する」という作業は、とても創造的ですね。洋の東西を問わず、情報の少ない昔のお菓子を作る職人さんたちは、きっと皆さんこういった作業をしているのではないかと思ったり。たとえばヨーロッパ中世のお菓子を再現しようとして、当時牛乳をしぼっていた牛の品種まで考えたりするのとか、面白そうだなあ。「これはまだ交配していない!」とか「チーズはこの時代の気温と湿度に合わせて作る」とか。夢が広がります。

 そういえば以前、『カレーライスを一から作る』という本を読んだことがあります。これは武蔵野美術大学のゼミで行われた活動の記録の書籍化なのですが、「カレーライスを食べるために必要なものを、自分たちで作る」という楽しい一冊。ゼミの終わりというエンドから逆算して、材料はもとより、お皿や調味料まで自分たちで作らなければいけない。米や根菜に時間がかかることはわかっていても、スパイスのための植物を育てて、乾燥させて、という時間まで考えなければいけないのが面白かった。

 自分が何かを食べるとき、その食べ物がここに至るまでどのような工程を経ているか。そのことを考えるのは楽しくてときにつらいことです。そのために殺された命や、不当な賃金での労働や環境問題。「そんなの気にしていたらなにも食べられないよ」と思う心と、「いや考えるべきだぞ、考えつづけることが大切だぞ」と思う心。そのあわいで、いつも揺れています。

 あ、最近の食べ物関連の本といえば、千早茜さんの『わるい食べもの』『しつこく わるい食べ物』がものすごく好きでした。千早さんと同じで、私も楽しい会食の後、よくお腹を壊します。緊張と緩和のコンボにやられます。集団生活が苦手です。悪党のごはんに憧れました。いつかお話ししてみたいです。でもお互いど緊張の会食でお腹を壊しそうだから、リモートとかがいいのかもしれません。時節柄。

 あと書き残したことといえば、「それはおやつの範疇を超えているのでは」という理由で書けなかった王子サーモンの銀座店! ここには、なんと鮭の種類を選べるおにぎりがあるんですよ! 紅鮭と時鮭。うまい米と海苔。いやもう絶対おいしいでしょ。あと、電子レンジ調理ですぐ食べることのできるスモークサーモン・クリームコロッケ。手頃な価格にひかれて購入したのですが、これもとてもおいしかった……。最近では鮭弁当もあるらしいし、またぜひ行きたいです(ちなみにその後、私が強引に「おにぎりもおやつ」理論を繰り出したため、連載におにぎりや軽食が登場するようになりました)。

 行きたいといえば、物産館で出会った県に行きたいです。というか、旅がしたい。知らないおやつを、もっと食べたい。お腹弱めの引きこもりがちな私ですが、世の中が少し穏やかになったら、ゆっくりと色々なところに出かけたいなと思っています。その際はぜひ、あなたの街のおすすめを教えてくださいね。楽しみにしています。

 あなたのおやつ時間が、いつも充実したものでありますように。

 私は、おやつが好きです。

坂木司

文春文庫
おやつが好き
お土産つき
坂木司

定価:737円(税込)発売日:2022年01月04日

電子書籍
おやつが好き
お土産つき
坂木司

発売日:2022年01月04日

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