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第2次安倍政権は結局、何を残したのか? キーパーソンへの徹底インタビューが明かす内幕!

第2次安倍政権は結局、何を残したのか? キーパーソンへの徹底インタビューが明かす内幕!

船橋 洋一 (アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長)

『検証 安倍政権 保守とリアリズムの政治』(アジア・パシフィック・イニシアティブ)

出典 : #文春新書
ジャンル : #政治・経済・ビジネス

『検証 安倍政権 保守とリアリズムの政治』(アジア・パシフィック・イニシアティブ)

「検証 安倍政権」プロジェクトは、安倍政権が進めた政策と統治の両面の主なテーマを取り上げ、それぞれなぜ、その時、そのように展開したのか、あるいはしなかったのか、を検証することを試みた。政策の検証の場合も、政策そのものの是非というよりもむしろ政策を政策たらしめる決定過程を検証することを心掛けた。なぜ、その時、その政策を選択したのか、誰が、その決断を、どのような判断材料に基づいて行ったのか。そこでのトレード・オフはどのように措定されたのか。費用対効果をどのように計算したのか。そういった意思決定過程の検証は統治のあり方に光を当てることになるだろう。

 統治のあり方は、政権交代という政党民主主義の競争的環境を醸成する上で、重要なテーマである。野党が政権を担当するにはよき政策にとどまらずよき統治をものにすることが必要である。安倍政権の前の民主党政権の政権運営(政党ガバナンスを含む)が劇的な失敗に終わっただけに、とりわけ野党が統治のあり方を組織学習することは、日本の政党民主主義にとって切実な宿題となっている。

 統治のあり方はまた、SNSにおけるフェイクニュースの広がりをはじめとする「真実の腐食」と専門家などの「知識オーソリティー」への不信感、「我々対彼ら」のアイデンティティ政治への立てこもり、そして排他的なポピュリズムやナショナリズムの噴出──を前に、熟議と妥協による中道の政治を再構築する上からも差し迫ったテーマであるはずである。

 安倍政権検証の構想は2018年秋頃から温め、準備を始めた。最初に中北浩爾一橋大学大学院教授に相談し、力強い賛同を得た。その際、検証は「政策そのものの成否の評価よりむしろ政策の決定過程の解明とそこに表れる統治のありように光を当てるべきだ」との点で一致した。ただ、安倍政権は当時、まだ政権担当現在進行形だった。従って、検証プロジェクトを立ち上げるのは、もう少し観察してからにすることにした。2020年初頭、新型コロナ危機が日本を襲い、その年の夏、安倍首相は持病を悪化させ、退場した。実際にプロジェクトを立ち上げ、最初の研究会を開催したのは2020年12月である。研究会はZoomで行い、計14回開催した。

 メンバーは、座長の中北教授の他、以下の方々である。

上川 龍之進 大阪大学大学院法学研究科教授
境家 史郎 東京大学大学院法学政治学研究科教授
神保 謙 慶應義塾大学総合政策学部教授
寺田 貴 同志社大学法学部政治学科教授
熊谷 奈緒子 青山学院大学地球社会共生学部地球社会共生学科教授
竹中 治堅 政策研究大学院大学教授
辻 由希 東海大学政治経済学部政治学科教授
ケネス・盛・マッケルウェイン 東京大学社会科学研究所教授

 2021年7月から11月まで安倍晋三首相、菅義偉官房長官をはじめ安倍政権の主要閣僚や官邸官僚など計54名に対するヒアリングを行った。政治家の場合、原則、オンレコでお願いした。官僚の場合、ほとんどがお名前を出さないバックグラウンドでお話を伺うことになった。

 アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)は、その前身の日本再建イニシアティブ(RJIF)が民間事故調をプロデュースし、『福島原発事故独立検証委員会 調査・検証報告書』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2012年)を刊行して以来、『民主党政権 失敗の検証』(中公新書、2013年)、『検証 日本の「失われた20年」』(東洋経済新報社、2015年)、『人口蒸発「5000万人国家」日本の衝撃 人口問題民間臨調 調査・報告書』(新潮社、2015年)、『新型コロナ対応・民間臨時調査会 調査・検証報告書』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2020年)、『福島原発事故10年検証委員会 民間事故調最終報告書』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2021年)を世に問うてきた。今回の『検証 安倍政権 保守とリアリズムの政治』はシンクタンクを設立してからの10年で7冊目の検証報告書に当たる。

 私たちは、公共政策の「検証」をシンクタンクの重要な使命と役割であると考えている。

 そして、「検証」に当たっては、

1 直接の当事者の話をしっかり、丁寧に聞く。それを踏まえて、帰納的に結論を導く。
2 善玉・悪玉の構図を描くのではなく、クリティカル・レビューを行う。
3 因果関係には近因、中因、遠因がある。中因と遠因は、意思決定において決定前の人間の判断に影響を与える社会的、歴史的背景、そしてシステミックな要因である。そこにメスを入れる。

 などに留意して行うことを心掛けてきた。

 今回も、そうした検証メソッドを念頭に置いて、検証作業を進めた。

 この報告書が、日本の政権運営と統治の解明に少しでも寄与し、民主主義の基である公共政策とその決定過程に対する市民のリテラシーの向上にいささかなりとも役立てば、望外の幸せである。

2021年10月31日 第49回衆議院総選挙の投開票日

船橋洋一(アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長)


(「はじめに」より)

文春新書
検証 安倍政権
保守とリアリズムの政治
アジア・パシフィック・イニシアティブ

定価:1,265円(税込)発売日:2022年01月20日

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