- 2022.03.25
- 書評
2022年の大谷は、「とんでもない結果を叩き出す」のか?
文:大越 健介 (テレビ朝日「報道ステーション」キャスター)
『大谷翔平 野球翔年 Ⅰ 日本編2013-2018』(石田 雄太)
本書の流れを見ると、その次にインタビューが実現したのは、おそらく渡米後の初キャンプのころだったと推察される。エンゼルスへの入団の決断と契約、渡米という激動の時間、さすがの石田も大谷の単独インタビューの時間を確保することは難しかったのだろう。
インタビューが叶わなかったそのはざまに、石田はそれまでの大谷の言動と実績を反芻し、エンゼルスとの契約に至った理由を分析し、さらに実に大胆な自身の予測を記している。本書の「2017 故障と試練の先に」の章の(6)にその個所はある。
メジャー1年目の大谷に周りが期待することと、大谷自身が期待することにはギャップがあるはずだ。1年目から、大谷が二刀流プレイヤーとしてメジャーで圧倒的な数字を残せるとは思わないほうがいい。ただし、5年経ったときの大谷がメジャーで例のない二刀流プレイヤーとして、とんでもない結果を叩き出している可能性は極めて高い。つまり、大谷のメジャー挑戦はそういう道を辿るはずだ。
私がこの稿をしたためている今は、2022年の1月である。
私はすでに、メジャー1年目の大谷が新人王を獲得する活躍を見せながらも、「圧倒的な数字」とは言い難く、しかもひじの手術を必要とするほどの負荷を身体にかけていたことを知っている。その後の2年間は本人にとって到底満足のいく結果を残すことができなかったことも知っている。さらに、2021年に大ブレイクし、投手として9勝、打者として46本の本塁打を放ち、文句なしにシーズンのMVPに選ばれ、二刀流プレイヤーとして名実ともに歴史に名を刻んだことも知っている。
そんな私は、改めて2017年に記された石田の一文を読み返すとき、軽い戦慄(せんりつ)すら覚えるのだ。大谷がメジャーリーグで歩む挑戦の道筋を、ほぼ言い当てているではないか。
優れた取材者は、その記録の確かさゆえに近未来を予測することができるのかもしれない。少なくとも2017年時点の石田にはそれが可能だった。つまり本書は、いまやベーブ・ルースをも超える、唯一無二のメジャーリーグの顔となった大谷の真実を、萌芽の段階から探り当てた貴重なノンフィクションなのである。
最後に私は告白めいたことをしなければならない。
実は、私もまた、大谷翔平のインタビュアーだった。NHKに在籍当時、メジャーリーガー・大谷の実像に迫ろうと、何度か単独インタビューを行った。そのうち、メジャー1年目のシーズンオフに行ったロング・インタビューは、ほどなく放送化することができた。
その後も大谷の証言を映像記録に残すべく、リモート方式も含め、インタビューを複数回行う機会を得たが、次なるドキュメンタリー番組の放送は、大谷がMVPを獲得した2021年のシーズンオフを待たなければならなかった。その間、私個人は新天地を求めてNHKを退職することを決断し、大谷のインタビュアーとしての仕事は後輩たちに委ねざるを得なくなった。
幸い、NHKスペシャル、およびBS1スペシャルとして結実した大谷のドキュメンタリーは、その輝かしい足跡のみならず、ケガの渦中にあった大谷の本音をもしっかりとあぶり出していた。私が途中でバトンを託した後輩たちの仕事ぶりは、実に頼もしいものだったのである。
ただ、私自身のことだけを考えたとき、大谷のインタビュアーとして合格点を与えることができるかと言えば心もとない。大谷へのインタビューは、毎回極めて興味深く、刺激に満ちたものだった。やりがいに満ちていた。その際、私が意識したのが、「Number」誌上にしばしば掲載される石田の大谷へのインタビュー記事だった。
私は石田によるインタビュー以上のものを大谷から引き出したいと努力した。だが、ゆったりした佇(たたず)まいから繊細な言葉を繰り出す大谷に対し、自在な対応ができたかどうかは自信がない。正直に言うと、大谷の高校卒業後から丹念に彼と向き合ってきた石田に、インタビュアーとして一日の長があったと認めざるを得ない。実際に石田に会ってみて、大谷と向き合うための豊富な引出しを知ればなおのこと、その思いは強くなった。
2022年、大谷はメジャーリーグ5年目のシーズンを迎える。
前年のシーズン、大谷は驚異的な成績を残した。それでも大谷は、「この数字は今後の基準、あるいは最低ライン」と発言している。
ここで、本書で石田が披露した2017年時点の予測に立ち戻ろう。「5年経ったときの大谷がメジャーで例のない二刀流プレイヤーとして、とんでもない結果を叩き出している可能性は極めて高い」。石田の予測に、より正確に従うならば、「5年経ったとき」とは2022年シーズンを指すことになる。二刀流をファンに強く印象付け、MVPをかっさらう偉業を成し遂げた2021年を上回る「とんでもない結果」とは、いったいどのような世界なのだろう。
大谷という若武者が、前人未到の領域に斬りかかる。そこに伴走するようにして石田がインタビューという真剣勝負をかける。取材する側とされる側。ここにも息詰まるつばぜり合いがある。きっと、見たこともない世界が舞台である。(敬称略)
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