累計170万部突破の「響け!ユーフォニアム」シリーズ、吉川英治文学新人賞を受賞した『愛されなくても別に』など人気、実力を兼ね備えた気鋭による、ハラハラドキドキの青春ファンタジーが刊行されました。
ある朝仲内佳奈が目を覚ますと、彼氏の坂橋亮が世界から消えていた……
LINEに履歴はないし、電話帳の中の番号もなくなっている。不安になって亮のマンションに行ってみるが、亮の部屋はずっと空室だという。親友に亮の話をしても「そんな人には会ったことがない」と言われてしまう。
自分の頭がおかしくなってしまったのか、それとも世界の方が壊れてしまったのか? 佳奈は混乱しながらも、亮の手がかりを探し始める――
恋愛は人間関係のバリエーションの一つ
――今作は初めての恋愛小説です。なぜ今回書こうと思ったのでしょう?
20歳でデビューして今年で作家生活9年目になるのですが、この年になってようやく恋愛小説というものに向き合おうと思ったからですね。
そもそも自分の人生の中で、恋愛の優先度が低かったんです。学生時代は、恋愛にいそしむ同級生を横目にお笑い芸人にハマっていましたし、20代前半は仕事が楽しくて仕方がありませんでした。10代・20代前半の頃は、恋愛は選ばれし者だけがすることのできる、特別なイベントだと思い込んでいて、自分の人生とは縁遠いものだと感じていました。
ところが、25歳を過ぎたあたりから友達の環境も変わってきます。結婚する子も多いですし、それ以外の選択をする子だって多い。いろいろな恋愛の形が見えてきたことで、私の中の恋愛観も変わりました。先日結婚したのも、その影響が大きいと思います。恋愛というのは(恋愛をしないという選択も含めて)特別なものじゃなくて、友達ができるとか会社で後輩ができる、みたいなことと同じ「人間関係」のバリエーションの一つじゃないかと思えるようになったんです。
そうやって紆余曲折を経て、自分の中で恋愛観が着地したというか、地に足の着いた恋愛観にたどりつけたことで、この物語ができたのだと思います。
――ご結婚されたことで恋愛観に変化はありましたか?
恋愛観は変わりませんでしたが、人生観は変わりましたね。正直に言うと、私はこれまでどうとでもなるだろうという気持ちで生きてきました。作家として生活できなくなったら京都の実家に帰ればいいや、と思っていたので自分の人生の決定に他人が入る余地がありませんでした。
ところが結婚すると、自分だけ京都に帰るわけにはいかないしなあ、もし住宅ローンを組んだとしたら払い終わるのは〇〇歳で……といままで考えたこともない未来図が、突然目の前に現れてびっくり。家族ができるというのは、自分の人生設計に他人が含まれるってことなんだな、と実感しました。
私の感覚では結婚は、してもしなくても「普通」なんです。そうやって「普通」がたくさん増えていくことが多様性なのかなと。幸せになるために結婚が必要とは全く思わないのですが、結婚という決断を共にできる人に会えたのは幸せなことかなと感じています。
――この小説には、kassiopeia(カシオペイア)という「今は絶対に会えない人に会わせてくれるお店」が登場します。武田さんだったらこのお店で誰に会いたいですか?
人じゃないんですけど、実家の飼い猫のバロンちゃんです。作家になるタイミングで飼い始めて、2年前に亡くなりました。専業作家でがんばるぞ、と東京に出てくるときもバロンと離れ離れになることだけが心残りでした。上京してすぐの頃は2か月に1回はパソコンを持って実家に帰って、バロンと遊んでいましたね。
バロンはまだ若かったんですけど首の後ろに腫瘍ができてしまって、手術は成功したもののそんなに長く生きられないことはわかっていました。「年は越せないかもって獣医師の先生に言われた」と母親から連絡を受けた時は、夜中3時まで原稿を書いたあと、始発の新幹線に飛び乗って実家に帰ったこともありました。会うことができたら、また撫でてあげたいですね。猫好きはみんな同じ気持ちだと思います。
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