第1回 背徳のアレンテージョ
「背徳のアレンテージョ」
思わず声に出して読んでしまいました。
何でしょう、このゾワゾワする語感。およそ食エッセイのタイトルらしからぬ妖しさがあります。
むしろかっこいいアニメ、もしくはそのテーマソングのタイトル。前のめりなリズムのシンコペーションと大袈裟なストリングスアレンジが今にも聴こえてきそうです。あるいは剣と魔法のファンタジー物に登場する、魅力的でニヒルな悪役の二つ名。あるいは赤と黒の妖艶なドレスに身を包んだ夜の踊り子。手にはカスタネットもしくは短剣を持っています。昭和の時代、中森明菜さんがこんなタイトルの歌を歌ってませんでしたっけ。歌ってませんね。
アレンテージョとは何でしょう。人名っぽいけどそうではありません。情熱的な舞踏音楽のジャンルでもありません。暗殺専用の怪しい武器でもありません。
それは、「豚肉とアサリの煮込み」。ポルトガル料理です。アレンテージョは地名なので、料理名の表記としては「アレンテジャーナ」がより正確なのですが、日本では「豚肉とアサリのアレンテージョ風」と言われたりもします。
肉類と魚介類が同時に使われた料理を見るとゾワゾワします。なんだか見てはならないものを見てしまったような気がする。でも嬉しい。いけないことをしてる気がする。でも興奮する。幸せすぎて後ろめたいような気もする。まさに背徳の悦びです。
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